2023年宇宙のニュース振り返り

2023年も宇宙に関する驚きと発見が詰まった一年でした。

若田宇宙飛行士の船外活動や宇宙旅行に関するビジネス、新たな宇宙飛行士候補の誕生、さらに日本人宇宙飛行士が月面探査計画に参加決定など、話題となった宇宙のニュースとともに2023年を振り返りましょう。

※2023年12月25日現在の情報です

宇宙開発(非商業)

有人宇宙活動

1/20 若田宇宙飛行士が初の船外活動


若田宇宙飛行士船外活動(EVA)ダイジェスト– JAXA公式You Tube

国際宇宙ステーション(ISS)に長期滞在を行った若田光一宇宙飛行士が船外活動(EVA)を行いました。

若田宇宙飛行士はISSにおけるミッションCrew-5にメンバーの一人として参加、2022年10月から2023年3月にかけてISSに滞在し、多数の科学実験を行いました。若田宇宙飛行士は通算5回目の宇宙飛行となりましたが、船外活動は初めての取り組みです。

船外活動はISSの古い太陽光パネルに新しいパネルを追加するといった内容で、同じCrew-5メンバーのニコール・マン氏とともに、およそ7時間半宇宙空間で作業が行われました。

若田宇宙飛行士は2/2にも2回目の船外活動を行っており、前回の作業から続けてさらに約6時間かけて新たな太陽光パネルの取り付けを完了させました。

 

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2/28 宇宙飛行士選抜試験 結果発表

およそ13年ぶり宇宙飛行士候補選抜試験が行われ、最終合格者となるJAXAの新たな宇宙飛行士候補2名が発表されました。

宇宙飛行士候補選抜試験が実施されるのは6回目で、2021年12月から募集開始され、その後およそ一年をかけて書類選考から第三次まで計5回の選抜試験が行われました。

宇宙飛行士候補に内定したのは諏訪 理氏、米田 あゆ氏の2名です。

諏訪氏は世界銀行の上級防災専門官、米田氏は日本赤十字社医療センターと虎の門病院の外科医というキャリア持ち、さらに米田氏は向井 千秋宇宙飛行士、山崎 直子宇宙飛行士に続く3人目の宇宙飛行士候補となりました。

2人の参画するプロジェクトはJAXAで基礎訓練を行った後、数年間の宇宙飛行士訓練後に決定されます。

4/4 アルテミス計画参加の宇宙飛行士発表


アルテミス2参加メンバー紹介PV– NASA公式You Tube

月面探査計画の「アルテミス計画」において月への飛行に参加する宇宙飛行士が発表されました。

2022年に実施された「アルテミス1」では、宇宙船「Orion(オリオンまたはオライオン)」の無人月周回の飛行テストが行われました。

次のフェーズである「アルテミス2」は「Orion」に実際にクルーが搭乗し、月の周回飛行が実施されます。

メンバーはリード・ワイズマン氏(アメリカ)、ビクター・グローバー氏(アメリカ)、ジェレミー・ハンセン氏(カナダ)、クリスティーナ・コック氏(アメリカ)の4名で、コック氏は女性、グローバー氏は有色人種、ハンセン氏はアメリカ人以外でそれぞれ初めて月面に向かう宇宙飛行士となります。

2023年12月時点では「アルテミス2」の実施は2024年11月頃とされています。月への有人宇宙飛行は1972年の「アポロ17号」以来約50年ぶりです。

 

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6/16、11/14 日本人宇宙飛行士2人が2025年に2度目のISS長期滞在決定

6月に油井宇宙飛行士がISSに長期滞在を行うことが発表されました。

油井宇宙飛行士は元自衛官で、大西宇宙飛行士、金井 宣茂宇宙飛行士とともに2009年に宇宙飛行士選抜者に選ばれています。その後訓練を経て2015年に初めての長期滞在が実施。145日間の滞在を行いました。

また、11月には油井宇宙飛行士に続き、大西宇宙飛行士のISSの長期滞在が発表されました。

大西宇宙飛行士は元飛行機のパイロットです。2016年に115日間のISS長期滞在を行っています。

それぞれ2回目となるISS滞在ミッションの詳細は発表されていませんが、油井宇宙飛行士のミッションは当初2024年に予定されていたのが2025年に変更になっています。

12/25 「アルテミス計画」に日本人宇宙飛行士の参加が決定

アルテミス計画に日本人宇宙飛行士が少なくとも2人参加すると発表されました。

月面の周回を行うアルテミス2の次段階として、2025年実施予定のアルテミス3以降のミッションでは月面着陸が行われます。

このアルテミス計画のミッションに日本人宇宙飛行士が参加する方向で、2023年12月25日現在日本とアメリカの政府間で最終調整が進められています。

候補となる宇宙飛行士は発表されていませんが、実現すれば日本人初の月面着陸となります。

また、アルテミス計画の月を周回する宇宙ステーションを建設する「ゲートウェイ計画」にも日本人宇宙飛行士の参加が決まっています。

宇宙開発・研究

5/24 重力波観測装置「KAGRA」3年ぶりに観測再開

岐阜県にある重力波観測装置「KAGRA」が2020年以来2年ぶりに観測を再開しました。

重力波は物体の加速度運動によって発生する空間の歪みで、質量が大きいほど大きな重力波が発生します。しかし、重力波を観測するのは非常に困難で、初めて観測に成功したのは2015年、アインシュタインが存在を予言してからおよそ100年後になりました。

重力波観測装置は、超新星爆発や星の衝突などの質量大きい星の運動によって発生する重力波を観測するための設備で、「KAGRA」の他に重力波の初観測に成功したアメリカの「LIGO(ライゴ)」と、イタリアとフランス共同の「Virgo(ヴィルゴ)」があります。

「KAGRA」は岐阜県飛騨市にある神岡鉱山の地下に建設されており、2020年に運転を開始しましたが、コロナ禍より観測を中断、さらに観測装置の感度を上昇させるためのアップグレード作業が2年に渡り続けられていました。

観測再開後、4週間で一旦観測運転が終了、2024年春に行われる観測運転に向けて調整と、得られた観測データの分析が現在進められています。

7/2 宇宙望遠鏡「Euclid(ユークリッド)」打ち上げ


Euclid打ち上げの様子– SPACEX公式You Tube

欧州宇宙機関(ESA)の開発した宇宙望遠鏡「Euclid」が米国フロリダ州ケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられました。

ユークリッドは600 メガピクセルのカメラや、反射望遠鏡、近赤外分光計を備えており、100億光年先の銀河まで観測可能です。「Euclid」で得られたデータをもとに宇宙の3Dマップを作成、宇宙の膨張の測定や宇宙の9割を占めるダークマターの解明が目的となっています。

打ち上げ後、1カ月かけて「Euclid」は太陽と地球のラグランジュ点(太陽と地球間の重力が釣り合う位置)から周回軌道に入り、本格的に運用が開始されました。11月には「Euclid」で撮影された銀河の写真が公開されています。

運用期間は打ち上げから6年の予定です。

9/25 探査機「OSIRIS-Rex(オシリス・レックス)」が小惑星「Bennu(ベンヌ)」で採取した試料を収めたカプセルを届ける

探査機OSIRIS-Rexが小惑星で採取した石や砂などのサンプルを宇宙から投下し、ユタ州の砂漠地帯で回収されました。

OSIRIS-RexはNASAによって開発された探査機です。2016年に打ち上げが行われたのち、2018年に小惑星「Bennu」に到着、2020年にサンプル採集を行いました。

「Bennu」は地球に接近する周回軌道を持つ地球近傍小惑星の一つで、「はやぶさ」の「イトカワ」、「はやぶさ2」の「リュウグウ」と同じグループのアポロ群に属します。

無人探査機による小惑星の試料採集は「はやぶさ」と「はやぶさ2」に次いで3例目ですが、OSIRIS-Rexが採集した試料はおよそ250gで、「はやぶさ2」が採集した5.4gを大きく上回りました。回収されたサンプルには炭素や水などが含まれているとされ、さらに分析が進められています。

サンプル投下後のOSIRIS-Rexは小惑星Apophis(アポフィス)の周回探査のミッションに入り、地球を離れました。

 

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12/1 X線突発天体監視速報衛星「こよう」の打上げ

金沢大学理工研究域先端宇宙理工学研究センターの開発したX線突発天体監視速報衛星「こよう」がカリフォルニア州ヴァンデンバーグ宇宙軍基地から打ち上げられました。

「こよう」は金沢大の学生が中心に開発を行った超小型人工衛星で、X線観測を行う広視野X線撮像検出器やガンマ線検出器などが搭載されています。

ブラックホールの誕生時など、大きい重力波の発生時にはX線やガンマ線も同時に発生する事が分かっています。「こよう」はX線の発生方向などを観測し、発生時間などの特定を速報で地上の観測者に伝達するといった目標を持っています。

打ち上げ後の12月には地上との通信に成功しており、観測フェーズに移行する調整が進められています。

宇宙ビジネス

宇宙開発

1/13,11/2 北欧に衛星用ロケット発射施設が2カ所開港


Spaceport EsrangePV– Spaceport Esrange公式You Tube

ロシアを除くヨーロッパには軌道に投入できる衛星ロケット発射施設がありませんでした(運用が終了した施設はあり)が、2023年の1月にスウェーデンの「Spaceport Esrange(スペースポート・エスレンジ)」と、11月にノルウェーの「Andøya Spaceport(アンドーヤ・スペースポート)」が開港しました。

「Spaceport Esrange」はスウェーデン北部の街キルナの近郊にあるロケット発射場で、スウェーデン宇宙公社が運営を行っています。

北極圏に近く、オーロラも観測可能で人工光も少ないことから観測気球や観測ロケットの打ち上げに適している他、ロケットの燃料テストや、衛星通信サービスの施設なども備えています。

ノルウェーの「Andøya Spaceport」は北部にあるアンドーヤ島に新設された宇宙港で、アンドーヤスペース社が運営を行っています。

複数の発射台のほか、ペイロード統合施設、ミッション管制センターなどの施設が建設予定ですが、初回の打ち上げはドイツのロケット開発会社Isar Aerospace(イザール・エアロスペース)が独占使用権を持っており、Isar Aerospaceの開発するロケットの仕様に合わせた発射台やペイロード統合施設になるとされています。

エスレンジとアンドーヤはもともと各国の宇宙機関が管理する低軌道の打ち上げ設備があり、どちらも気球や低高度の観測ロケットなどの打ち上げ実績があるものの、軌道投入が可能な衛星用のロケットの設備は初めて設置されました。

来年度にはどちらの施設でも衛星の打ち上げが開始される予定です。

7/12 中国民間開発メタンロケット・朱雀2号打ち上げ成功

中国の民間ロケット開発企業であるLandSpace(藍箭航天 ランドスペース)が、液体酸素とメタンを推進剤に利用したロケット「朱雀2号」の打ち上げに成功しました。

LandSpaceは北京を拠点にロケット開発を行う宇宙ベンチャー企業です。2015年の設立以降、2018年10月に固体燃料ロケット「朱雀1号」を、2022年12月に液体酸素とメタンを使った液体燃料ロケット「朱雀2号」の初号機を打ち上げてきましたが、いずれも軌道投入は至らず失敗。しかし「朱雀2号」の2号機で初めて軌道投入まで成功させたと同時に、メタンを使用したロケットとしても世界で初めて軌道に到達したとして話題になりました。

メタンは現在ロケットで利用されているケロシン及び液体水素より低コストで扱いやすい事から近年エンジンの燃料として注目されており、SpaceXなどでも開発が進められています。

LandSpaceは「朱雀2号」の打ち上げ成功を踏まえ、液体酸素とメタンを使用したさらに大型のロケット「朱雀3号」を開発中としています。

10/4 Amazonが通信用の試験衛星の投入に初成功

Amazonが開発した通信衛星2機がフロリダ州のケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられました。

Amazonは衛星通信サービスを展開する「Project Kuiper」(プロジェクト・カイパー)を2019年から進めており、10/4の打ち上げにはその試験機である「KuiperSat-1」及び「KuiperSat-2」がロケットAtlas V(アトラス5) に搭載されました。

衛星は無事軌道に投入されたのち、12月には約1,000km離れた2衛星間での通信テストに成功しています。

衛星通信サービスはSpaceXが展開するStarlinkをはじめ、アメリカのLynk Global、フランスのEutelsat S.A.(ユーテルサット)などが通信衛星を投入しており、注目が高まっている分野です。

「Project Kuiper」による衛星通信サービスは2024年の後半にサービス開始が予定されています。

宇宙エンタメ

2/21 岩谷技研が宇宙旅行ツアー発表


宇宙遊覧フライトPV– 岩谷技研公式You Tube

北海道を拠点とする企業・岩谷技研が気球と2人乗りのキャビンによる宇宙旅行企画「OPEN UNIVERSE PROJECT」を発表しました。

岩谷技研はガス気球を用いた成層圏の宇宙遊覧フライト事業の実現を目指しており、ツアー発表時には2人乗りの気密キャビンが公開されました。

上空10~50kmほどの成層圏は重力も地上とあまり変化がないため、訓練無しで飛行できるのが大きな特徴です。また、常に晴れ渡っており、風もないことから、安定した飛行が可能になります。

岩谷技研では2023年10月に有人ガス気球で成層圏(高度10,669m)への到達に成功しており、12月には実機による訓練を開始、来年度には搭乗者を乗せた第一期宇宙遊覧フライトが予定されています。

近年気球を使った宇宙ビジネスは注目されており、海外でもSpace PerspectiveやWorld View(いずれもアメリカ)などの企業が気球による成層圏ツアーの実施を発表しています。

宇宙をテーマにしたホテル「八ヶ岳高原テラス Space Hotel the amulapo」がオープン

宇宙体験のコンテンツなどを提供するamulapoがプロデュースする、宇宙ホテル「八ヶ岳高原テラス Space Hotel the amulapo」が長野県原村にオープンしました。

原村は八ヶ岳の南西部に位置し、高度1000mの高原地帯です。夏でも涼しく、降水量が少ない安定した気候が特徴となります。また、高度もあり自然豊かで人工光が少ないことから美しい星空を見ることができ、『星降る里』とも称されます。

「八ヶ岳高原テラス Space Hotel the amulapo」では、星空観測やキャンプ、宇宙ダイニングバーなど、宇宙を感じる宿泊体験が可能です。

2023年12月時点ではペンションの形態ですが、2027年に向けて宇宙をテーマにした食や建築、宇宙体験などのアクティビティを徐々に展開する予定としています。

 

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次へのステップを予感させる2023年

新たな宇宙港の新設や通信衛星の増加、そして宇宙旅行ビジネスなど、これからが楽しみになるニュースが多い一年となりました。2024年の宇宙はより私たちに身近なものになっているかもしれません。

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