宇宙飛行士になるには?試験の内容、学歴や実務経験などの応募条件も

前回の2008年からおよそ13年ぶりの宇宙飛行士候補者募集。技術の進化に伴い年々宇宙への関心が高まり、さらに応募条件が大幅に緩和されたことで応募者数が増え、前回の963人から4,127人と約4倍に増加しました。宇宙飛行士の仕事に就くチャンスは広がったと言えるでしょう。 この記事では、「2021年度 宇宙飛行士候補者 募集要項」の内容をもとに、宇宙飛行士になるための道のりや応募条件、試験内容などを解説します。また、宇宙飛行士試験に合格してから実際に宇宙に飛び立つまでの流れについてもご紹介します。

宇宙飛行士になるにはどうすれば良い?

宇宙飛行士になるまで、実際にどのような道のりがあるのでしょうか? まずは、宇宙飛行士になるためのステップや応募条件、試験内容をご紹介します。

JAXAの宇宙飛行士募集試験に合格する

宇宙飛行士になるには、まずJAXAが募集する宇宙飛行士試験に合格しなければなりません。そもそも宇宙飛行士とは、宇宙で特定の任務を果たすためにJAXAやNASAから選ばれた人を指します。現状、日本の宇宙開発のミッションはJAXAが担っているため、JAXAの試験に合格することが、宇宙飛行士の第一歩と言えるでしょう。

宇宙飛行士になるまでの道のりとは?

実は、宇宙飛行士試験に合格してもまだ正式には宇宙飛行士として認められません。実際は、以下のような流れで進行します。

 

<宇宙飛行士として宇宙に行くまでの道のり>

宇宙飛行士の応募条件を満たす
     ↓
JAXAの宇宙飛行士募集試験に応募する(不定期)
     ↓
募集試験に合格する
     ↓
宇宙飛行士候補生になり指定の訓練を受ける
     ↓
訓練が認められて正式に宇宙飛行士となる
     ↓
任務が決まるまで訓練を続けて待機する
     ↓
任務が決まれば宇宙に行ける

 

正式に宇宙飛行士になるには、試験合格後に宇宙飛行士としての基礎的な訓練を修了しなければなりません。訓練が修了すれば晴れて宇宙飛行士となりますが、宇宙に行くためには、任務を命じられるのを待たねばならず、任務が決まると約2年をかけて任務のための訓練を行います。なお、大前提として、JAXAが宇宙飛行士を募集しなければ、試験を受けたくても受けられません。次回の募集試験については2022年3月時点では明らかにされていません。

応募条件

ここでは、2021年度の募集要項をもとに、宇宙飛行士試験を受けるための条件や試験の流れについてご紹介します。

以下は、2021年度募集時に掲げられた応募条件です。

項目 条件
(1)国籍 日本国籍を保有
(2)実務経験 3年以上の実務経験*
*実務経験:修士号取得者は1年、博士号取得者は3年の実務経験とみなす
(3)身体基準 身長:149.5cm以上190.5cm以下
視力:両眼とも矯正視力1.0以上
色覚:正常(石原式による)
聴力:正常(背後2mの距離で普通の会話が可能)

*出典:独立行政法人 宇宙航空研究開発機構|を元に作成

また、下記の該当者には応募資格がありません

  • 禁錮以上の刑に処せられ、その執行の終わるまでの者、またはその刑の執行猶予期間中の者、その他その執行を受けることがなくなるまでの者
  • 日本国憲法またはその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党、その他の団体を結成し、またはこれに加入した者
  • 反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有している者

*引用:独立行政法人 宇宙航空研究開発機構|2021年度 宇宙飛行士候補者 募集要項|4.応募資格

最終学歴の要件設定はなく、一般的な社会人としての実務経験があれば応募することが可能です。なお、修士号取得者は1年分、博士号取得者は3年分の実務経験と見なされます。

身体基準も明確に定められており、この基準の範囲外である場合は応募できません。この基準は性別に関わらず同一条件で設定されています。

大幅に緩和された応募条件とその背景とは?

およそ13年ぶりに実施された2021年度の宇宙飛行士候補者の募集。前回行われた2008年度の募集内容と比べて応募条件が大幅に緩和されました。主な緩和対象は「学歴」「専門性実務経験」「医学的要件」の3点で、それぞれ以下のように変更されています。

・学歴
前回は「自然科学系の4年制大学卒業以上」が条件として設定されていましたが、2021年度の募集では学歴要件そのものが撤廃されました。そのため文系学部卒や中卒の人でも応募することが可能です。

*4年制大学卒業相当の能力や自然科学系の素養は、その後の選抜過程で評価されます。

 

・専門性実務経験
前回は「自然科学系(理学部、工学部、医学部、歯学部、薬学部、農学部など)分野における3年以上の実務経験」が要件でした。2021年度の募集では、これが単に「3年以上の実務経験」に変更されています。正社員や派遣社員といった就業形態は問わず、社会人としての実務経験があれば応募することができます。また、学生の間に行ったインターンや起業経験が実務経験とみなされるケースもあるようです。

*その後の選抜過程で、STEM(科学、技術、工学、数学)分野の試験が実施されます。

 

・医学的要件
前回は、身長について「158cm以上190cm以下」が要件とされていましたが、2021年度募集では「149.5cm以上190.5cm以下」に変更されました。これは宇宙船の改良や新規開発に伴い緩和された項目です。また、体重は「50kg~95kg」が応募条件でしたが、生活指導などの取り組みによってある程度増減できることから、体重の項目自体が撤廃されています。

2021年度募集では、より多くの、そして多様なバックグランドを持った人からの応募を得ることを狙いとして、大幅な要件緩和が行われたようです。また、上記以外にも「泳力」や「自動車免許保有」などが応募資格として設定されていましたが、訓練期間中に充足できることから、2021年度の応募条件から除外されています。

試験の流れ

宇宙飛行士試験は、書類選抜、第0次選抜、第一次選抜、第二次選抜、第三次選抜の計5つの選抜過程が設定されています。

参考までに、前回(2008年度募集)の各選抜試験の通過率は約20%で、宇宙飛行士試験全体の合格率は約0.3%でした。倍率で示すと321倍ですので、難関大学と比較しても非常に高い倍率と言えます。

以下は、2021年度の募集内容で公表された試験の種類と、それぞれの試験内容を示した表です。ちなみに2021年度募集の書類選抜では約55%が通過しました。

試験の種類 試験内容
書類選抜
  • エントリーシート(応募資格、健康診断結果、健康状況申告)の審査
第0次選抜
  • 英語試験
    *以下は英語試験合格者のみ
  • 一般教養試験
  • STEM分野の試験(国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)相当)
  • 小論文
  • 適性検査
  • エントリーシート(志望動機、目指す宇宙飛行士像、業務経験など)の審査
第一次選抜
  • 一次医学検査
  • 医学特性検査
  • プレゼンテーション試験
  • 資質特性検査
  • 運用技量試験
第二次選抜
  • 二次医学検査
  • 医学特性検査
  • 面接試験(英語、資質特性、プレゼンテーション)
第三次選抜
  • 三次医学検査
  • 医学特性検査
  • 資質特性検査
  • 運用技量試験
  • 面接試験(総合、英語、プレゼンテーション)

*出典:独立行政法人 宇宙航空研究開発機構|を元に作成

0次選抜からは、教養や専門知識などを評価するさまざまな試験が控えています。試験のジャンルも多岐にわたるので、満遍なく理解を深めておく必要があります。また、三次選抜は海外での実施も予定されており、負荷のかかる環境下での行動観察などが行われます。これは2008年度募集時の三次選抜で実施された長期滞在適性検査と同種のテストであることが予想され、宇宙での長期滞在でかかる身体的・精神的ストレスへの適応能力を特殊な装置による測定やグループワークを通して検査されるようです。

宇宙飛行士に求められる適性

宇宙飛行士に求められる人物像は大きく下記の3つです。ミッションを成功させるための協調性やリーダーシップ身体・精神の両面における柔軟な適応力、多国籍メンバーと共同で作業するためのコミュニケーション力、ミッションで得た経験や成果を世界中の人々や次世代へ発信する(いわゆるアウトリーチ業務を行う)ための表現力など、さまざまな要素が求められます。

(1)国際共同事業、多国籍なメンバーシップのチームの中において、日本の代表として、多様性を尊重しつつ、ミッションを成功に導くための協調性と十分なリーダーシップを発揮できる。

(2)来たる国際宇宙探査ミッションを見据え、様々な環境に対しても適応能力があり、宇宙という極限環境での活動においても、柔軟な思考と着眼点を持ち、自らを律しつつ、適時的確な判断と行動ができる。

(3)ミッション参加により得た経験・体験・成果を世界中の人々と共有する表現力・発信力があり、それらを活用し人類の持続的な発展や次世代のために貢献する。

*引用:独立行政法人 宇宙航空研究開発機構|2021年度 宇宙飛行士候補者 募集要項|7.求める人物像

また、宇宙飛行士は役割によって個別の任務が決まっており、役割に応じた専門知識も必要です。以下では、宇宙飛行士の代表的な4つの役割であるコマンダーパイロットミッション・スペシャリスト(MS)ペイロードスペシャリスト(PS)について、それぞれの仕事内容と過去に担当した日本人の宇宙飛行士をご紹介します。

役割 仕事内容・特徴 日本人の宇宙飛行士
(敬称略)
コマンダー 船長としてスペースシャトル全体の指揮を執る 若田光一
星出彰彦
パイロット コマンダーを補佐し、コマンダーからの指示に沿って作業する
ミッション・スペシャリスト(MS) スペースシャトルの全システムを把握し、システムの運用・ロボットアームの操作・船外活動を実施する。搭乗運用技術者と呼ばれる 毛利衛
若田光一
土井隆雄
野口聡一
古川聡
星出彰彦
山崎直子
ペイロードスペシャリスト(PS) 科学系任務の担当者として、実験をメインで行う。搭乗科学技術者と呼ばれ、科学者や研究者が選ばれる 向井千秋

また、これら4つの役割の他に、国際宇宙ステーション(ISS)のシステム保守や修理、実験を行うことができるISS搭乗宇宙飛行士、ソユーズ宇宙船*でコマンダーの補佐をするフライトエンジニアが存在し、上記表で名前が挙がっていない、油井亀美也、大西卓哉、金井宣茂(敬称略)ら日本人の宇宙飛行士も活躍しています。

*ソユーズ宇宙船:ロシアの有人宇宙機で、現在は主に宇宙飛行士が地上とISSを移動する際に使用される。

宇宙飛行士の給料はどれくらい?

宇宙飛行士試験に合格するとJAXAの職員として採用され、JAXAからは30歳だと約32万円35歳だと約36万円を目安として給料がもらえます。これは入社時の給料であり、この時点ではまだ宇宙飛行士候補生という扱いになります。

入社後の訓練を経て無事に宇宙飛行士として認められると、宇宙飛行士手当がつき、基本給の倍ほどの給料になるようです。ほかにも、高所作業や爆発物の取り扱いなどの訓練や任務を行うと、特殊勤務手当がつきます。JAXAに入社したときの初任給は、同年代の一般的な会社員の給料と同程度のように感じるかもしれませんが、宇宙飛行士として認められれば手当が増えて受け取れる額も増えるようです。

宇宙飛行士試験合格から搭乗までの流れ

宇宙飛行士になるには、宇宙飛行士試験に合格してからも、さまざま訓練を乗り越えなければなりません。ここでは、国際宇宙ステーション(ISS)に搭乗する場合を例に、試験合格後から搭乗までの流れや訓練の概要についてご紹介します。

JAXAやNASAで基礎訓練コースを受講する

宇宙飛行士試験に合格したら、基礎訓練のカリキュラムを受講し、ISS搭乗宇宙飛行士を目指します。基礎訓練とは、宇宙飛行士としての基礎を習得するための訓練で、大きく以下4つの分野が学習する対象です。期間は約1年半で、時間にしておよそ1,6000時間に及ぶと言われています。

<基礎訓練コースで習得する4つの分野>

  1. 宇宙機に関する基礎知識、今後必要となる基礎的な工学
  2. 宇宙で実験を行うために必要な科学
  3. ISSの仕組みや運用方法の基礎知識
  4. 1~3のほかに宇宙飛行士として必要な能力

基礎訓練で学ぶことは、宇宙での任務を遂行する上でベースとなる知識や技術、思考などです。宇宙飛行士は、任務に応じて特定の専門性が求められるため、その基礎作りとしてこれらの訓練を最初に受けます。中でも重要とされているのがコミュニケーションで、4の訓練では英語とロシア語の訓練があり、これらの語学訓練は全体の1/4を占めます。

基礎訓練を無事修了し、宇宙飛行士として問題ないと認められれば、ISS搭乗宇宙飛行士として認定され、個別の任務の訓練に移行していきます。

個別の任務に応じた訓練を受ける

基礎訓練修了後には個別の任務の訓練を通して、宇宙飛行士としての経験を積んでいきます。ISSに搭乗する場合は、日本の実験棟の運用や維持をメインに行うため、ISSの操作や修理ロボットアームの操作船外活動のシミュレーションなどがカリキュラムとして組まれています。

実は、これらの訓練はJAXAだけで行われるわけでありません。JAMSSは民間企業として訓練インスタラクターを抱え、宇宙飛行士の訓練や搭乗支援を行っています。

詳しくは、JAMSSの宇宙飛行士の訓練支援サービスのページをご覧ください。

担当する任務が決まれば搭乗できる

個別任務の訓練を通して経験値を高め、知識や技術力などが認められれば、宇宙飛行士としての正式な任務が与えられ、ISSへの長期的な滞在を命じられます。ただし、任務が決まったからといってすぐにISSへ向けて飛び立つのではなく、そこから約2年をかけて担当する任務の訓練を実施します。このように時間をかけて準備した上で、ようやく宇宙へ飛び立つことができます。

ISSで任務をやり遂げ、無事に帰還したら、地上の環境に体をならすためにリハビリを受ける、任務についての報告会を開催する、といったことが待っています。その後は、JAXA職員として勤務を続ける場合とJAXAを離れて個人やほかの組織で活動する場合があります。JAXA職員として残る場合は、再度訓練を続けて次の任務を待つケース、研究・開発に従事するケース、などが一般的です。また、宇宙飛行士としての経歴を生かし、JAXAとは異なる組織の運営に携わる、講演活動などに精を出す、といったケースがあります。

まとめ

宇宙飛行士になるには、まずJAXAの宇宙飛行士試験に合格する必要があります。その上で、基礎訓練を修了することで、正式に宇宙飛行士として認められます。さらに、個別の任務訓練で経験を積み、晴れて宇宙に飛び立つことができます。

また、宇宙飛行士試験を受けるには、クリアしなければならない応募資格があります。2021年度には約13年ぶりに宇宙飛行士候補者の募集が実施され、前回(2008年度)と比べて大幅に応募条件が緩和されました。とはいえ、狭き門であることに変わりはなく、語学の習得や体力づくりなど、宇宙飛行士としての素地をつくることが重要です。ちなみに、2020年の政府発表によると、今後は5年に1度の頻度で募集を行う予定でいるとの見解が示されたので、今回は応募資格に満たなかった方も次のチャンスに向けてぜひチャレンジしてみてください。

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  • JAMSSでは宇宙飛行士の訓練のノウハウを活かしNASAの訓練プログラムを元に、効率的・効果的な訓練を提供しています。

JAMSSは1990年の設立以来、国際宇宙ステーションの開発・安全審査・運用利用などの幅広い業務を行ってきました。その業務の一つとして、世界各国の宇宙飛行士や管制員向け訓練の開発に着手し、1998年より訓練を実施しています。

これまで宇宙飛行士100名以上、運用管制員200名以上の訓練によって蓄積したノウハウを元に、NASAの訓練プログラムを日本のエンジニア向けに独自にカスタマイズし、効率的、効果的な訓練を提供しています。

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