スマート農業とは?デメリットはある?目的別の導入事例を解説!

近年、農業の課題を解決する手法として注目されているスマート農業。「スマート農業」という言葉自体は聞いたことがあっても、スマート農業の定義やメリット・デメリットについて知っている方は意外と少ないのではないでしょうか。この記事では、スマート農業によって実現できることを挙げ、導入事例をご紹介します。また、スマート農業のデメリットや注意点についても解説しています。

スマート農業とは?

スマート農業とは、従来の農業と何が違うのでしょうか? まずは、スマート農業の概要について解説します。

農作業にロボットや通信技術を取り入れること

スマート農業とは、農作業にロボットや通信技術を取り入れることで、効率化や省力化を実現する農業形態です。従来の農業の課題を解決する方法の一つとして、近年注目されています。

日本の農業で課題となっているのが、農業従事者の人手不足高齢化後継者不足、それらに伴う離農などです。以降では、スマート農業がこれらの課題に対してどのように役立つのかを解説しています。

スマート農業により実現できること

スマート農業では主に以下の3点が実現できるようになります。それぞれについて見ていきましょう。

<スマート農業によって実現できる3つのこと>

  • 農作業の肉体的な負担を軽減できる
  • 効率的に栽培・収穫できる
  • 熟練者の技術や知識を見える化できる

農作業の肉体的な負担を軽減できる

スマート農業は、種まきや農薬・肥料の散布、生育状況の確認、収穫などの人の手で行っていた農作業の一部を機械化することで、肉体的な負担を軽減することができます。代表例としては、農業用のドローン果樹園の自動収穫ロボットなどが挙げられます。他にも、トラクターやコンバインなどの無人自動走行機能の実用化に向けた取り組みも進められています。

また、農作業中の腰の負担を軽減する「アシストスーツ」といったものも開発されています。体に装着して利用するこれらのタイプの機器もスマート農業の一環として注目され、導入が進んでいます。

導入事例については「負担軽減|農業用ドローンの活用」でご紹介します。

効率的に栽培・収穫できる

スマート農業によって実現できることとして、栽培・収穫の効率化も挙げられます。従来の農作業は、人が動いて作業を進めることが主流でした。一方で、スマート農業では、人の代わりに機械が作業をしたり、センサーで圃場(ほじょう)*の状況を観測したりと、人が動いて作業する時間を減らせます。浮いた時間で栽培や収穫の計画を立てられるので、従来よりも全体でかかる時間を減らし、効率的に栽培・収穫することができます。

*圃場(ほじょう):田畑や農場のこと

導入事例については「作業効率化|生産管理システムの活用」でご紹介します。

熟練者の技術や知識を見える化できる

スマート農業によって、従来は暗黙知として共有されにくかった熟練就農者の技術や知識を形式知として見える化できるようになります。例えば、熟練就農者が気を付けている作業のポイントや判斷基準などを学習支援システムやAIに学習させることで、いつ、何を、どんな手順で、どのくらい行うのかが、データで示されるようになります。

農業は自然を相手にしていることもあり、熟練生産者の勘や知識、技術といったノウハウをマニュアル化しづらく、継承が難しいとされています。さらに、新規就農者が知識や技術を身に付けるまでに長い時間を要します。スマート農業では、熟練就農者の暗黙知を形式知化し、メンバー間で共有することで経験や知識の浅さをカバーすることができます。

導入事例については「就農支援|学習支援システムの活用」でご紹介します。

【目的別】スマート農業の導入事例

ここまでは、スマート農業の概要についてご紹介してきました。ここからは、スマート農業の導入事例をご紹介します。事例ごとに、導入前の課題や活用方法、導入メリットについてまとめています。

負担軽減|農業用ドローンの活用

スマート農業に応用されるドローンは、主に農作業の負担軽減を目的として活用されています。そもそもドローンとは、遠隔で操作できる航空機の総称です。機体にカメラやその他の装置を設置することで、上空からさまざまなことを実施できるようになりました。

農業用ドローンは、スマート農業の中でも活用方法がシンプルで、初心者でも取り入れやすい手法とされています。用途は、農薬・肥料の散布、生育状況の把握、収穫物の運搬などが一般的です。

<農業用ドローンの導入・活用事例>

▼導入前の課題

  • 農薬・肥料散布に負担がかかる
  • 生育状況の確認に負担がかかる
  • 収穫物の運搬に負担がかかる

▼活用方法

  • ドローンに農薬散布装置を設置し、上空から農薬を散布する
  • ドローンにカメラを設置し、上空から圃場の状況を撮影する
  • 収穫した作物をドローンに取り付け、作業場まで運搬する

▼導入メリット

  • 肥料・農薬散布や収穫物の運搬の機械化によって肉体的な負担が軽くなる
  • 生育状況の確認にかかる負担が軽くなる

農林水産省はスマート農業推進と農業用ドローンのさらなる普及のために、さまざまな啓蒙活動を実施しています。その一環として、農業用ドローンの機体やサービスのカタログも紹介しています。気になる方は、こちらからご確認いただけます。

作業効率化|生産管理システムの活用

スマート農業にも応用される生産管理システムは、農作業の効率化や最適化を目的として導入・活用されています。生産管理とは製造業でよく使われる言葉で、農業では作付けの計画から育成、収穫、出荷までの生産活動全体を通して、最適化を図ることを意味します。その考え方をシステム化することにより、総合的かつ効率的に農作業を管理することができます。

農業用の生産管理システムの用途は、データによる従業員間の情報共有肥料・農薬の散布量の自動計算最適な収穫日の予測、などさまざまです。作付けの計画段階から出荷までのあらゆる業務に対して最適化を図るための仕組みが設定されています。

<生産管理システムの導入・活用事例>

▼導入前の課題

  • 作業指示や進捗の共有がうまくいっていない
  • 作業記録を紙で管理していて情報の検索や統計を出すことが難しい
  • 栽培に必要な農薬・肥料などの資材費用の計算に時間がかかる

▼活用方法

  • 作業メンバーにアプリを通して作業指示や進捗の共有を行う
  • 圃場ごとの作業内容や生育記録をアプリ上で検索する
  • 栽培に必要な農薬・肥料の量と費用をアプリ上で計算する

▼導入メリット

  • メンバー間で作業指示の認識の誤りが減り、無駄な作業が減る
  • 圃場の状況が見える化され、作業計画を考える手間が減る
  • 栽培に必要な資材の計算や管理の手間が減る

生産管理システムは、作業日誌のデータ化に限定したサービスから農作業全般を対象にするものまでさまざまです。サービスの範囲が広くなるほど利用料も高くなるので、現時点で効率化したい作業を洗い出し、優先順位を決めた上で検討するのが良いでしょう。

就農支援|学習支援システムの活用

学習支援システムは、スマート農業の一つとして、就農支援のために活用されます。就農支援とは、農業に就く人をサポートし、定着させることを指します。熟練生産者が、自身が作業するときの注意点や勘所をシステムに登録することで、新規就農者向けの学習コンテンツが出来上がるという仕組みです。

学習支援システムは、新規就農者が短い時間で効率的・効果的に学習するためのツールです。その一方で、熟練生産者の知識・技術を形式知化し、次の世代に継承することにも役立ちます。

<導入事例>

▼導入前の課題

  • 新規就農者や若手の農家が効率的に農作業を学ぶための手段がない
  • 熟練生産者の勘や知識、技術が継承されない

▼活用方法

  • システムに登録された学習コンテンツで自習する
  • 熟練生産者が大事にしている作業のポイントを写真付きでシステムに登録する

▼導入メリット

  • 学習コンテンツを通して短時間で効果的な知識を得られる
  • 新規就農者や若手の生産者でも一定以上の品質の作物が作れるようになる
  • 熟練生産者の暗黙知が形式知となり、継承できるようになる

なお、生産管理システムの導入事例で挙げた圃場の状況のデータ、収穫予測なども新規就農者向けの学習コンテンツとして活用できます。スマート農業によって得られたさまざま情報を組み合わせることで、より充実した学習教材となります。

スマート農業の相談は誰にしたら良い?

スマート農業の導入方法や検討の仕方、取り扱いの難易度などが気になった場合、都道府県ごとに設置されている普及指導センターに相談することができます。また、スマート農業導入にあたり補助金制度を活用できるケースもあり、コスト面で踏み出せない方も一度相談してみると良いでしょう。中にはスマート農業に関する質問会や講座を開いているところもあります。

また、スマート農業に利用される技術や装置は日々進化しており、新しいものに興味がある方は、イベントや展示会に参加してみると良いでしょう。

スマート農業を始める上での課題と対処法

スマート農業が実現すれば、従来の農業の課題を解決することにつながります。一方で、スマート農業は、人によってはデメリットと感じることもあります。最後に、スマート農業の課題とその対処法についてご紹介します。

導入のために費用がかかる

スマート農業を始める上で課題となるのが、装置・システムの導入やサービス利用にかかる費用の負担です。費用は、導入する装置やシステム、サービスの種類や数によるため、各農場によってさまざまで、一概にその金額を挙げられません。例えば、作業日誌をアプリで管理できるサービスは月額500円程度で利用できますが、農薬や肥料を散布するためのドローンは一機あたり60~100万円前後で販売されており、何をどれほど導入するかによって導入費用は大きく異なります。

スマート農業にはコストがかかる一方で、スマート農業に取り組む農業従事者に対して、さまざまな補助金や支援制度が拡充されつつあります。農林水産省の「逆引き辞典」のページから、スマート農業や新技術の導入に関する補助金制度を調べることができるので、気になる方は一度調べてみてください。

今までとは異なる負担が増える

スマート農業は、導入した装置やサービスを利用するために新たな業務が発生し、今までとは異なる負担が増える、という課題も挙げられます。例えば、使い方を覚える、得られたデータを取り込んで分析し解釈する、維持メンテナンスをする、運用する、といったことです。スマート農業技術による効率化は、導入した新技術を使いこなすことが前提となっており、その前提は意外と見落とされがちで、導入後の継続利用も課題となっています。

一方で、スマート農業を実現するための新技術は機能だけでなく、農業従事者にとっての使いやすさの改良も進んでいます。操作ができるだけ簡単なものを選ぶことで、新たな負担が大きくならないよう対処できます。また、デジタルに強い人材を引き入れることや、農業従事者へ継続的なデジタル教育の場を作り上げることも、対処法の一つです。これからは農作業だけを行う人材ではなく、スマート農業のインフラを支える人材を取り入れることも検討してみると良いでしょう。

まとめ

スマート農業によって実現できることは、「農作業の負担軽減」「効率的な栽培・収穫」「高品質の農作物の栽培」の3つでした。農作業にロボットや通信技術を取り入れることで、これらを実現できるようになります。

スマート農業を導入すると、コストがかかる、新たな業務が増える、といった課題もあります。一方で、政府や都道府県による支援の仕組みも拡充されているので、気になった方はまず地域の普及指導センターに相談してみると良いでしょう。

ちなみに、JAMSSでは衛星データや気象データを活用した営農支援サービス「Digital Farming©」や、Digital Farming©の実績をもとに開発した農作業の効率化を図る営農支援アプリ「リモファーム(TM)」を提供しています。

リモファーム(TM)については、デジタルに不慣れな農業従事者でも毎日利用しやすいよう、操作や機能をシンプルに設計。また、作物の生育状況や生育ムラが可視化でき、その場の気象情報や収穫時期などの予測情報を取得できるので、見回り作業の省力化など、必要なタイミングで計画的に実施することに役立てられます。詳しくは、JAMSSの衛星データ・気象データ解析技術を利用した営農支援サービス「Digital Farming・リモファーム」のページをご覧ください。

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  • 圃場の作物の生育状況(営農情報)をGoogle Mapの地図上にビジュアルで表示することで、点在する圃場の状態を俯瞰的に提供します

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