これからが楽しみ!2020年以降設立、今注目の宇宙ベンチャー企業13選
近年、宇宙産業は需要の拡大とともに驚異的な成長を遂げています。NASAや民間企業の宇宙探査に加え、宇宙関連のビジネスを行う企業が世界中で続々と登場しています。
日本も例外ではなく、新興の宇宙企業の取り組みがニュースなどで注目される場面が増えてきています。
新たに登場した宇宙企業の取り組みは、私たちの生活にどのような影響を与えるのでしょうか。この記事では、2020年以降に日本で設立された宇宙ベンチャー企業に焦点を当て、どのような未来を作り出そうとしているのか、探っていきましょう。
ロケット開発
AstroX
設立:2022年
AstroX株式会社は福島県南相馬市を拠点とする企業で、ロケットを空中で打ち上げるロックーン方式による小型衛星ロケットの開発を行っています。
ロックーンとはロケット(Roket)とバルーン(Balloon)を組み合わせた言葉で、気球から吊り下げられたロケットを成層圏などの空中で発射させる打ち上げ方式です。
気球はロケットや飛行機より低コストかつ軽量で、成層圏まで上昇可能であることから、気球を利用した成層圏ツアーなど近年宇宙開発の分野で注目が集まっています。
ロックーン方式自体は新しいものではなく、1950年代にアメリカではじめて実験が行われていますが、気球を空中で操作できず、安定して発射させることが難しいことが長年主な課題となっていました。
AstroXは2022年12月に行った実験で、姿勢制御を用いた気球からのロケットの空中発射を世界で初めて成功させたことにより、課題となっていた点を克服しています。
実験結果をもとに、今後は気球やロケットの大型化や高高度での発射などに取り組む予定です。
コーポレートサイト:https://astrox.jp/
株式会社ロケットリンクテクノロジー
設立:2023年
株式会社ロケットリンクテクノロジーはJAXA発のベンチャー企業です。JAXAの小型ロケットイプシロンの開発責任者である森田泰弘氏が代表となり、LTP燃料(低融点固体燃料 Low melting temperature Thermoplastic Propellant)の開発・活用を中心にロケット開発の低価格化、新しい打上げ方式/回収方式の開発などに取り組むとされています。
ロケットの燃料は主に液体と固形の2種類があり、例えば日本での打ち上げに利用されるH-Ⅱロケット、アメリカで有人宇宙飛行に使われるfalcon9などが液体燃料ロケットになります。一方イプシロンは個体燃料ロケットです。現在は液体燃料が主流ですが、近年ロケットの小型化や燃料の扱いやすさ、保管のしやすさの面から固体燃料が再注目されています。
ロケットリンクテクノロジーの開発するLTP燃料は、固体燃料生成時に課題となっていた生産設備や生成の難易度の高さ、製造時間等の課題を克服し、町工場でも手軽に生産できることが大きな特徴です。
現在は主に2024年3月に予定されているLTP燃料ロケットの試験機の打ち上げに向けた実験が進められています。
コーポレートサイト:https://rocketlink.co.jp/
発射場整備
SPACE COTAN
北海道スペースポートPV– SPACE COTAN公式You Tube
設立:2021年
SPACE COTANは北海道大樹町にある発射場「北海道スペースポート」を運営しています。
大樹町は1980年代から宇宙事業基地の誘致活動を開始。1992年には初めて宇宙関連実験が実施されたのを皮切りに、ロケットやジェットエンジンなどの実験が多数行われました。これに伴い滑走路や実験設備などが海沿いの大樹町多目的航空公園内に整備され、JAXAの実験場も併設されました。2017年にはインターステラテクノロジズ株式会社による観測ロケット「MOMO初号機」の打ち上げも行われています。
2019年に地域の企業などが発表した「北海道スペースポート構想」をもとに、民間主導による「北海道スペースポート」のプロジェクトが本格始動、2021年に発射場などの施設の建設が始まるとともに、運用企業としてSPACE COTANが設立されました。
国内・海外の官民問わず誰でも使用が可能な「アジア初の商業宇宙港」として、ロケット、飛行機、気球などあらゆる打ち上げに対応できる発射場や新規の滑走路・格納庫の整備などを他の企業とも連携して進めています。
コーポレートサイト:https://hokkaidospaceport.com
ブログ:https://note.com/hospo/
衛星開発
Pale Blue
東京大学発のベンチャー企業で、入手が容易で安全性の高い水を使った小型衛星用エンジンの開発を行っています。
人工衛星が方向転換や加速を行うための推進システムは、化学反応によって推力を生成する化学推進と、電気エネルギーを使って推進力を得る電気推進の主に2種類があり、化学推進にはヒドラジン、電気推進にはキセノンガスという化学物質が使用されている事が多いです。
しかしヒドラジンには高い毒性があり、人への健康被害や宇宙空間の汚染が懸念されることや、キセノンガスは高価で高圧環境下での貯蔵が必須といった問題点をそれぞれ抱えており、近年それに代わる新たな燃料やエンジンの研究が進んでいます。
Pale Blueでは水蒸気を噴きだすエンジンや、水プラズマで推進するエンジン、水蒸気とプラズマを使ったハイブリッドエンジンなどを開発しており、このうち水蒸気エンジンは2023年1月に打ち上げが行われた超小型人工衛星「EYE」にも搭載されています。
コーポレートサイト:https://pale-blue.co.jp/
ElevationSpace Inc.
ELS-R Concept Movie – ElevationSpace Inc.公式You Tube
設立:2021年
ElevationSpace Inc.は仙台を拠点とする会社です。
国際宇宙ステーションは2030年に運用停止が決まっています。その後継の宇宙ステーションはアメリカのAxiom Spaceなどが構想していますが、ElevationSpace Inc.では実験棟「きぼう」が担ってきた役割を受け継ぐ小型の人工衛星を開発しています。
「きぼう」は日本が主体となって開発を担当したモジュールで、2009年の利用開始から微小重力環境などを利用して、タンパク質結晶生成実験や細胞培養、ロボットアームを利用した小型衛星の放出など様々な実験が行われました。
ElevationSpace Inc.が開発中の人工衛星ELS-R、通称「あおば」は、2025年に初号機の打ち上げ予定されている、無人で生命科学実験や創薬実験、新技術の実証などを行う宇宙環境利用・回収プラットフォームです。高頻度の打ち上げに対応可能で、科学実験以外にも様々なオペレーションを実施できるとしています。
また、ElevationSpace Inc.では国際宇宙ステーションなどの低軌道拠点から物資を持ち帰るためのカプセルELS-RSの開発も行っています。
コーポレートサイト:https://elevation-space.com/
BULL
設立:2022年
BULLは主にスペースデブリ問題に関する取り組みを行うために企業です。
使用されなくなった人工衛星や事故によって発生した残骸、ロケットの部品などのスペースデブリは年々増加の一途をたどっており、その総数は1 cm未満のものを含めるとおよそ一億を超えます。
スペースデブリは現状回収の手段はありません。人工衛星や国際宇宙ステーションへなどへ衝突するリスクがあるだけではなく、大気中で燃え尽きる事が無い大きなサイズのスペースデブリは地上へ落下する危険性をはらんでいます。
BULLでは「軌道上から地球へ突入する」技術を利用して、宇宙の人工物を軌道から落下させ、大気圏内で燃え尽きるように作動する装置を開発中です。
装置をあらかじめロケットや人工衛星に搭載し、運用終了時に自動的に作動させることで、将来的なスペースデブリの増加阻止を目指しています。
コーポレートサイト:https://bull-space.com/
衛星利用
株式会社 Space Compass
株式会社Space Compassコンセプトムービー「コンパスがえがく、新しい未来」vol.4
– 株式会社Space Compassコンセプトムービー公式You Tube
設立:2022年
NTTとスカパーJSATによって設立された企業です。
Space Compassでは人工衛星を利用し大量のデータを高速で伝送する「宇宙データセンター事業」、人工衛星や無人の飛行機、飛行船などを「空飛ぶ基地局」として利用し、地球上のあらゆる場所に高速通信サービスを展開する「宇宙RAN事業」、そしてこれらを組み合わせた「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク事業」で宇宙を含む地球全域をネットワークでつながる社会の実現を目指すとしています。
「宇宙データセンター事業」の第一弾の衛星は2024年末に打ち上げ予定です。この事業に使用される衛星は「軌道静止衛星」と称され、地球と同じく24時間で軌道上を一周するため同じ場所で静止しているように見える事が特徴です。例えば気象衛星などが軌道静止衛星に分類されます。衛星が同じ場所に留まっている事により、安定したデータのやりとりが可能になります。
その後2026年にかけて軌道静止衛星を追加投入し、グローバルにサービスを展開する予定です。
コーポレートサイト:https://space-compass.com/
株式会社 sustainacraft
設立:2021年
sustainacraftは衛星リモートセンシングなどを利用し、自然資源とそこから排出される炭素排出量のモニタリングや、そのデータをもとにカーボンクレジットの活発な取引に繋げる事業を行っている企業です。
カーボンクレジットとは企業活動において削減した温室効果ガスの量を「削減量」として取引できる仕組みになります。再生可能エネルギーや植林などの自然保護活動で温室効果ガスを削減した企業はカーボンクレジットを売ることで利益を得ることができ、逆に温室効果ガスの排出が多い企業はカーボンクレジットを購入する事で排出量の相殺が可能です。
近年の地球温暖化による気候変動や温室効果ガス削減の関心の高まりから、カーボンクレジットの取引にも注目が集まっています。
Sustainacraftでは衛星データをはじめとしたリモートセンシング技術や因果推論技術を利用して、森林や泥炭地の保全プロジェクトにおける温室効果ガスの削減・吸収効果を可視化するサービスや樹木の生長をモニタリングするシステムなどを展開しています。
コーポレートサイト:https://jp.sustainacraft.com/
探査機開発
株式会社たすく
設立:2020年
株式会社たすくは設立された宇宙機器の開発を行う杉並区の企業です。主にキューブサットと称される小型人工衛星と月面探査車を開発しています。
キューブサットは10cm四方の正方形の衛星です。(20~60cmの高さがある規格もあり)小型かつ軽量で扱いやすいことから、2003年に初めて打ち上げられて以降多くの国や大学で作られています。従来、キューブサット衛星の製作費用は数百万程度かかりますが、たすくではおよそ150万からで製作できる低価格の衛星を提供予定です。
また、たすくが開発している探査車は「月の北極や南極で活動できる」ことを目標にしており、タイヤ部分を共通化した4輪と6輪のコンセプトモデルが公開されています。
2023年の夏に鳥取砂丘で試作品探査車(4輪モデル)の走行試験が公開で行われ、遠隔操作でスムーズに砂丘を進む様子が大きな話題となりました。
コーポレートサイト:https://task-inc.tech/
エンターテイメント
Spacetainment
設立:2022年
Spacetainmentはシンガポールと東京、ニューヨークを拠点とし、「宇宙を人類の旅の行き先に」をビジョンのもと、ホテルや飲食、アートなどさまざまな方面から宇宙を楽しむための事業を展開しています。
2023年4月には原宿にコワーキングカフェの「Spacetainment Coffee」をオープン。可愛いらしい宇宙飛行士のナノブロックが置かれた、シンプルで居心地よい空間でパンや飲み物を楽しめるほか、宇宙ビジネスや宇宙旅行に関わるゲストによるトークイベントなど、宇宙関連のイベントも開催されています。
このコワーキングカフェを皮切りに宇宙をテーマとしたホテルやカフェを経営、将来的には低軌道上や月面にもホテルやカフェ、テーマパークをオープン予定です。
また、2023年3月にはニューヨークを拠点に活動するアーティストYasuo Nomura氏とコラボを行い、アート作品を国際宇宙ステーションの外に展示し、「宇宙を経験した美術品」の制作に関わるなどの取り組みを行っています。
コーポレートサイト:https://www.spacetainment.com/
amulapo
バーチャル宇宙飛行士選抜試験 by amulapo PV– amulapoN公式You Tube
設立:2020年
amulapoはVR/AR技術(xR)、ロボット、AIなどのICT技術を利用して宇宙体験のコンテンツやSTEAM教育を提供する企業です。
若手の研究者や技術者が中心となっているのが特徴で、「ARでロケット打ち上げ体験」「VRで宇宙飛行士訓練を体験」「星空観測の穴場をおみくじで教えるサービス」など、最新技術を利用したイベントなどを開催し話題を集めています。
2023年には宇宙ホテル「八ヶ岳高原テラス Space Hotel the amulapo」がオープン。美しい星空を楽しめる長野県原村で、宇宙を感じる宿泊体験が可能です。2023年時点ではペンションの形態ですが、宇宙をテーマにした食や建築、宇宙体験などのアクティビティを段階的に造成する予定としています。
また、この「八ヶ岳高原テラス Space Hotel the amulapo」では宇宙モジュールでの滞在や社会実験といった宇宙開発を行う場としても活用が予定されており、2023年8月には宇宙研究に関わる大学や民間企業の研究者・開発者の宿泊を無料にするキャンペーンも実施されました。
コーポレートサイト:https://amulapo-inc.com/
その他
Space quarters
設立:2022年
Space quartersは宇宙空間で建築を行うための技術開発を行っている会社です。
宇宙空間においての建築は、新たな宇宙ステーションの建設など今後需要が高まるとされており、Space quartersは宇宙空間での大型建造物の造成を可能にする電子ビーム溶接技術を活用した建築技術の開発を進めています。
電子ビーム溶接は熱電子によって発生した運動エネルギーを溶接物にぶつけ、その衝突により発生した熱で溶融が起こる溶接方法です。レーザーを使った溶接などより深い溶接が可能などのメリットがあります。
熱電子は真空中で陰極フィラメントを真空中で加熱することにより発生するため、従来は真空環境を再現するための巨大な機械が必要ですが、真空に近い宇宙空間であれば手軽に溶接ができる電子ビームガンなどが実現可能になります。
Space quartersでは他にも溶接や検査を自動で行う建設用ロボットや、宇宙で組み立てを行う静止衛星用の大型アンテナの開発も手掛けています。
コーポレートサイト:https://space-quarters.com/
INAMI Space Laboratory
設立:2022年
INAMI Space Laboratoryは今年本格的にツアーが開始されたVirgin Galactic(ヴァージン・ギャラクティック)の宇宙旅行に初めて当選した日本人、稲波紀明氏によって設立された企業です。
「これまでのビジネスと宇宙を掛け合わせて新しい宇宙ビジネスを創造する」ことを目標に掲げ、宇宙ビジネスのプロデュースや宇宙輸送コーディネート、宇宙ビジネスサロンなどの事業を展開しています。
現在最も力を入れているのが医療機器の開発をはじめとした宇宙医療ビジネスです。「これからは健康な人だけではなく高齢者や障がい者も宇宙に行くようになる」稲波氏の考えが反映されています。
また、2023年3月には別府で温泉を活用したロケットの制作や、学生による宇宙ビジネスの発表などを行った宇宙イベント「湧く沸く宇宙FES in 別府」を主宰するなどの活動も行っています。
コーポレートサイト:https://isl-rocket.com/
「宇宙と繋がる生活」はすぐそこに
3年以内に新たに登場した企業だけでも、さまざまな宇宙ビジネスが展開し、通信や気象予報、環境モニタリングなど、多岐にわたる分野で革新が起こっています。
彼らの挑戦的なプロジェクトはいずれ、私たちの生活をこれまで以上に宇宙と密接に結びつくことでしょう。
宇宙の高速通信やロケットへの搭乗、宇宙旅行など、私たちがこれまで夢見てきた未来が、現実のものとなる日も遠くありません。