日本の技術が宇宙の未来を担う ~アメリカ最大規模の宇宙関連シンポジウム「Space Symposium」出展レポート~

アメリカ最大規模の宇宙関連シンポジウムである「Space Symposium」が米国コロラド州コロラドスプリングスにて2023年4月17日〜4月20日の期間で開催されました。

JAMSSは日本パビリオンの一社として日本の17社の民間宇宙関連企業とともにブースを出展し、有人宇宙のリーディングカンパニーとして事業紹介を行いました。

今回はイベントの様子や、他の日本パビリオン企業の出展内容などを紹介します。

開催概要

「Space Symposium」はSpace Foundationが主催するイベントです。1984年に第一回が開催されてから四半世紀を越える歴史を持ち、今年が38回目の開催となりました。宇宙ビジネスや宇宙教育に関する講演、ディスカッション、ネットワーキング、食事会、商談などが行われます。

また参加者もアメリカ国内にとどまらず、世界各国の宇宙愛好家をはじめ、研究者、商業・軍事・政府の宇宙事業のリーダー、出展者、メディア、ボランティア、教育者、学生など計一万人を超える人数が来場する大規模イベントとして知られています。

第38回Space Symposium公式サイト:https://www.spacesymposium.org/home-page/

オープニングセレモニーの様子 – © Space Foundation
企業出展スペースの様子 – © Space Foundation
企業出展スペースの様子 – ©Space Foundation

主催団体紹介

Space Foundationは1983年に設立された、宇宙分野の教育や宇宙産業を支援する非営利団体です。Space Symposiumなどの宇宙イベントやカンファレンスをはじめ、宇宙教育プログラムの提供、宇宙に関する報道・広報活動などを行っています。

Space Foundation公式サイト:https://www.spacefoundation.org/

第38回 Space Symposium 注目すべきトピック

イベント期間中、宇宙法、宇宙科学、宇宙教育、注目を浴びている宇宙企業、宇宙ビジネス人材、新世代リーダーといった多彩なテーマでディスカッションや講演が行われました。期間中、講演を行った人数は260人にも及びます。中でも月面開発やISSの老朽化に伴う今後の運用、そして安全保障に関する話題は頻繁に取り上げられ、将来の展望について議論が交わされました。

さらに、Space Symposiumでは宇宙関連企業の最新の技術や製品の展示会も行われました。4つ足のロボットや、ビックデータを可視化するシステム、最新の高速遠心分離機などが紹介され、参加者が業界の最新技術を体験するとともに、宇宙開発や探査能力の進歩を把握する貴重な機会となりました。

日本パビリオン「Japan‘s Space Industry」

「Japan‘s Space Industry」はJAXAが民間企業17社とともに運営する日本パビリオンです。

「Japan‘s Space Industry」ブース©JAXA
「Japan‘s Space Industry」ブース©JAXA

Japan‘s Space Industry 出展企業(17社)

会社名 公式サイト
株式会社Space Compass  https://space-compass.com
株式会社ダイモン https://dymon.co.jp
NTTDATA  https://www.aw3d.jp/
京セラ ファインセラミックス https://www.kyocera.co.jp/prdct/fc/index.html
シンフォニアテクノロジー株式会社 https://www.sinfo-t.jp/
The SKY Perfect JSAT Group(スカパーJSAT) https://www.skyperfectjsat.space
株式会社ひびき精機 http://hibikiseiki.com/
川崎重工 航空宇宙システムカンパニー https://www.khi.co.jp/corporate/division/aero/
三菱重工 宇宙開発部門 https://www.mhi.com/
Space BD https://space-bd.com
株式会社IHIエアロスペース https://www.ihi.co.jp/
 2024国際航空宇宙展 (by SJAC)  https://www.japanaerospace.jp/jp/
日鉄ケミカル&マテリアル株式会社 https://www.nscm.nipponsteel.com/
日本電波工業株式会社 https://www.ndk.com/
高砂電気工業 https://www.takasago-fluidics.com/
有人宇宙システム株式会社(JAMSS) https://www.jamss.co.jp
株式会社ispace https://ispace-inc.com/

JAMSSの展示

JAMSSが長年培ってきたISS/日本実験棟「きぼう」の経験・実績に基づく、地球低軌道(LEO)の商業利用に向けたサービスと新時代を切り拓く宇宙探査への取り組みについて紹介しました。

JAMSSの出展ブース

Japan‘s Space Industry ピックアップ企業4社紹介

Space Symposiumの日本パビリオンにて、JAMSSと共同で出展した日本の民間宇宙関連企業17社のうち、4社をピックアップしてご紹介します。いずれも独自の技術で宇宙開発に取り組んでいる企業です。

The SKY Perfect JSAT Group(スカパーJSAT)

スカパーJSATは衛星通信事業を展開している企業で、地球低軌道の小型衛星向けにデータを受配信するなどのサービスを提供しています。宇宙部門では、アジアで最多の通信衛星を利用し、インテルサット社とのパートナーシップによる衛星通信サービスを展開しています。

今回の展示では、衛星通信サービスにおいて量子暗号を使った二者間のセキュア通信を保証する取組みや、衛星通信技術を駆使した無人の宇宙ステーションプロジェクトについての紹介がされました。

イベントに参加したJAMSS社員のコメント

近年は量子暗号についての基準も充実してきており、遅延のないセキュアの通信の確保は、宇宙環境において衛星通信の利用を進める上でとても重要な技術です。

また、軌道上に宇宙ステーションなどのプラットフォームを持つことは、そこを拠点として、月や火星など深宇宙へ人間の活動を広めて行く基盤となるため、日本の宇宙開発にとって大きなステップになることが予想されます。

株式会社ダイモン

ロボットクリエーター・中島紳一郎氏が率いる企業で、開発を行った月面探査車「YAOKI」は、2023年後半に打ち上げを控えています。中島氏はアウディの四輪駆動システム「quattro」の開発も手掛けており、その経験が月面探査車に引き継がれています。

ダイモンの展示では、自社が手掛ける月面探査車「YAOKI」の実物大モデル、NASAから月面着陸を受託したAstrobotic社と契約した「Project YAOKI」の着陸船プロモーションが行われました。また、2023年に開始予定の1億円で月に1kgの物資を運ぶサービスも紹介されました。

イベントに参加したJAMSS社員のコメント

月への物資の民間輸送が2023年から始まる中で、1kgにつき 1億円とコストがかかってしまう点は、簡単に月面開発に挑めない要素です。そんな中でも、ダイモンは宇宙のスタートアップ企業として意欲的に名乗りを上げています。日本企業が月面探査に入り込むことは、国際的な月面開拓に日本の技術を吹き込み、低価格化への弾みになると感じられました。

NTTデータ

NTTデータは人工衛星に搭載したレーザ高度計を活用したハザードマップ等の高精度化実現を目指し、2022年度までJAXAと共同研究を実施していました。共同研究により取得したデータを用いることで、地盤面の高さを正確に測定し、3次元地図の高精度化を世界130か国以上に展開することを計画しています。

今回の展示では、レーザ高度計での取得データから実際にイメージとして起こした地形データや、実際に小惑星探査機「はやぶさ」の人工衛星にレーザ高度計が搭載された実績などが紹介されました。

イベントに参加したJAMSS社員のコメント

近年、豪雨による河川の氾濫等の水害が増加しています。そうした地球規模の問題に対する解決案を、NTTデータは宇宙開発・研究の側面からアプローチしていました。こうしたハザードマップ作成は、現時点では現在先進国を主な提供先としているとのことですが、ゆくゆくは発展途上国を含む全世界へ展開することが期待されます。

シンフォニアテクノロジー株式会社

シンフォニアテクノロジーは1917年の創業以来、国内唯一の航空機用電源システムメーカーとして航空機やヘリコプターの製造開発を支援してきました。航空宇宙部門の売上高は約100億円で、企業の全体売上高約700億円のうちの1/7を占めます。また宇宙ステーション補給機「こうのとり」2号機の空気循環ファンなどの製造実績もあります。

展示内容は宇宙、防衛、民間航空機の3セクションの構成です。宇宙部門の展示では、ロケットの飛行制御機器や推力偏向装置など多数の電装品を展示しており、シンフォニアが描く未来ビジョンを紹介する映像とともに紹介されていました。また、軍事飛行機への部品提供実績など、防衛関係の事業紹介も行われました。

イベントに参加したJAMSS社員のコメント

シンフォニアはH3ロケットへの部品提供もしており、日本の宇宙開発には欠かせない企業です。一方で展示担当者と会話する中で、ISSの2030年代での退役を控え、彼らとしても今後の事業を見直す転換期を迎えていることを強く印象づけられました。シンフォニアのような企業と情報交換することで、航空宇宙事業において宇宙関係の事業に舵を切るか、防衛関係の事業に注力するかを考えあぐねている日本企業が多いと感じました。

JAMSS社員としては、宇宙業界の活性化を願い、少しでも多くの企業が宇宙事業の拡大を目指してくれるよう、官が十分な資金確保を行って、アンカーテナントを担保する体制構築を願っています。

まとめ

今回Space Symposiumに参加した中で強く印象に残っていることは、やはり欧米諸国の宇宙開発に掛けるスピード感でした。2030年頃のISS退役を見据え、地球低軌道や月面での商機を狙う民間各社が描く事業像は実現性が高いと感じるものが多く、ISS退役を待たずとして2025年以降の宇宙ビジネスが欧米を中心としたものになることを予感せずにはいられませんでした。

一方で、アジア、ひいては日本の弊社JAMSSのような民間企業がどのような形で宇宙業界の潮流に乗って事業を拡大するために、様々な選択が求められる時期にあることを強く再認識しました。

そういった中、2022年9月にJAXAはISS退役後の地球低軌道で、どういったビジネスが考えられるかを民間企業と共に検討する業務契約を宇宙業界の5社と締結しました。この5社にはJAMSSも選定されており、JAXAや、時には他の選定企業も交え、様々な角度からディスカッションを行っています。

JAMSSとしても、今ある多くの選択肢や可能性の中から少しずつ将来の道筋を描いているところですが、30年以上にわたり培ってきた運用技術や、Kirara(宇宙環境でのタンパク質結晶生成サービス)などを通じて得た宇宙利用の知見やノウハウは、地球低軌道、月面、そして火星探査などにも十分活用出来ると考えています。

今後も、JAMSSはSpace Symposiumのような展示会やカンファレンスに国内外を問わず積極的に参加し、多くの情報を現地の熱とともに発信していきます。

JAMSSの更なる事業展開と共にご期待ください。

What is JAM Sta.

国際宇宙ステーション「きぼう」を運用している有人宇宙システム(JAMSS)が運営する、宇宙業界の盛り上がりをお届けする情報発信メディアです。「最新ニュース」「宇宙ビジネス」「宇宙利用」など様々な視点から、皆様へ宇宙の魅力をお届けします。
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