見逃せない! 2023年下半期 宇宙開発カレンダー
2023年前半期は超小型人工衛星「EYE」の打ち上げに始まり、若田光一宇宙飛行士の帰還や民間宇宙飛行士ミッションであるAxiom Mission 2(Ax-2)の実施、木星氷衛星探査機「JUICE」の打ち上げなど、宇宙開発面で様々な出来事がありました。
今回は2023年の7月から12月までに行われる打上げや、宇宙開発の事業を見ていきましょう。
※2023年9月20日時点の情報で作成しています。
打上げ(無人機)
7/5 Ariane 5打上げ成功(ヨーロッパ)
Ariane 5打ち上げの様子 – arianespace公式You Tube
フランス領ギアナにあるギアナ宇宙センターからヨーロッパの航空宇宙会社arianespace(アリアンスペース)によるロケット「Ariane 5」(アリアン5)の打ち上げが行われました。
Ariane 5は1997年に運用が開始された大型ロケットで、ヨーロッパ諸国の衛星や宇宙望遠鏡、ISSへの補給品といった重量のあるペイロード(搭載物)の運搬を中心に110回超の打ち上げが行われています。今回の打ち上げは4月の木星探査機「JUICE」以来2023年に入って2回目です。
この打ち上げでAriane 5は運用を終了し、開発中の後継機「Ariane 6」に引き継がれます。Ariane 6の初打ち上げは2023年10~12月の予定です。
arianespace公式サイト:https://www.arianespace.com/
7/14 月面探査機 Chandrayaan-3の打上げ、8/23 月面着陸成功成功(インド)
インド宇宙研究機関(ISRO)による3回目の月面探査のミッションであるChandrayaan-3が実施されました。
今回のミッションは2019年の月探査ミッションChandrayaan-2の内容を引き継ぐもので、Chandrayaan-2で失敗した月面着陸および無人機による月の地質探査などを行います。
Chandrayaan-3は7月14日に打ち上げられた後、8月5日に月周回軌道に入り、そして8月23日に月面着陸を成功させました。
これにより月面着陸に成功した国はアメリカ、ソ連、中国に続いて4カ国目となります。
9/7 H-ⅡA打上げ成功(日本)
種子島宇宙センターから「H-IIAロケット」47号機の打ち上げが行われました。
H-IIAロケットを使用した打上げは1月26日に行われた「情報収集衛星レーダ7号機」の打上げ以来7ヵ月ぶりです。
「H-IIAロケット」47号機にはJAXAの小型月探査機「SLIM(スリム)」と、天文衛星「XRISM(クリズム)」の2つの機器を搭載しています。
SLIMは打ち上げ後、日本初となる月面着陸を目指しており、「月の狙った場所へのピンポイント着陸」、「着陸に必要な装置の軽量化」の実証、さらに月の起源を探るための調査を行う予定です。
XRISMはX線を観測する天文衛星です。2016年に事故で失われた「ひとみ」の後継機で、「ひとみ」のミッションを受け継ぎ、宇宙の大きさ・構造や進化についての解明を目指します。
X線分光撮像衛星(XRISM)および小型月着陸実証機(SLIM)公式サイト:https://fanfun.jaxa.jp/countdown/xrism-slim/
10/5 Psyche実施(アメリカ)
火星と木星の間にある小惑星・Psyche(プシュケー)を調査する衛星の打ち上げが行われる予定です。
PsycheはNASAによる太陽系内小惑星探査のプロジェクト「ディスカバリー計画」の一環です。星およびプロジェクト名と同じ名前を持つ人工衛星が探査に向かいます。
調査対象の小惑星Psycheは鉄やニッケルを豊富に含んでおり、とくに鉄のコアがむき出しになっていると想定されていることから、地球など同じ金属核の星の成り立ちや構成についての科学的な解明が進むことが期待されています。
探査機は打ち上げ後2029年に小惑星に到着し、26カ月間の周回が行われる予定です。
11月頃 Lunar Trailblazer打上げ(アメリカ)
月の水について調査を行うプロジェクト・Lunar Trailblazerが実施されます。
Lunar Trailblazerは小型の宇宙船や他のミッションの宇宙船との相乗りを利用して低コストでの惑星探査ミッションを目指すNASA SIMPLEx (Small Innovative Missions for Planetary Exploration)プログラムの一つです。探査機の開発はカルフォルニア工科大学が主導して行っています。
「月の先駆者」を意味するLunar Trailblazerは、月の表面に存在する水についての調査を行います。水の形状、水量の変動、分布や位置関係を調べ、水のある場所のマッピングを作成し、将来における月面の活動を行う際に役立てます。
Lunar Trailblazer公式サイト:https://trailblazer.caltech.edu/
2023年度中 ADRAS-Jの打上げ(日本)
軌道上に実在する大きなデブリの状態について調査する衛星ADRAS-Jの打ち上げが行われる予定です。
使用されなくなった人工衛星をはじめ、ロケットの気に話部品、宇宙飛行士が落とした工具や部品など、衛星軌道上にあるスペースデブリは回収の難しさから年々増加の一途をたどっています。
スペースデブリは軌道上を周回しておりかつ高速で移動するため、稼働している人工物への衝突は大きな被害をもたらす可能性があります。例えば10cmのデブリがISSにぶつかった場合は外壁に穴が開いてしまうのです。将来的な宇宙活動におけるリスクも増大しており、スペースデブリ対策は近年ますます重要性を増しています。
ADRAS-JはJAXAの商業デブリ除去実証(Commercial Removal of Debris Demonstration CRD2)のために開発されている人工衛星で、2023年度中にニュージーランドの企業Rocket Labによるロケット「Electron(エレクトロン)」とRocket Labの発射場Launch Complex 1(ニュージーランド,マヒア)より打ち上げ予定です。
ADRAS-J公式サイト:https://astroscale.com/ja/missions/adras-j/
有人宇宙飛行
6/29、8/ 10、9/8 Virgin Galactic 商業有人宇宙飛行実施
8月10日の飛行の様子ダイジェスト-Virgin Galactic公式YouTube
アメリカの宇宙航空企業Virgin Galactic(ヴァージン・ギャラクティック)による商業有人宇宙飛行サービスが本格的に開始されました。
Virgin Galacticが提供するのは地上から出発後、高度100km付近まで急上昇して短時間で地上に戻る「サブオービタル飛行」と呼ばれる方式の宇宙飛行です。
使用される乗り物はクルーが搭乗する宇宙船「SpaceShipTwo」と二つの船体が連結した大型のジェット機「White Knight Two」で構成されており、White Knight Twoによって打ち上げ高度(約13500m)まで運搬されたのち、SpaceShipTwoが急上昇、高度80kmで折り返し地上へ戻ります。
地上を出発から戻ってくるまでの飛行時間はおよそ約1時半ほどですが、宇宙船に搭乗したクルーは高度80kmからの宇宙の景色や低重力状態を体験する事が可能です。
一回目となる6月29日の飛行にはイタリア空軍関係者や科学者が搭乗しました。
そして8月10日の2回目の飛行には懸賞で選ばれたジョン・ゴールドウィン氏(イギリスの元オリンピック選手)、ケイシャ・シャハフ氏とその娘のアナスタシア・メイヤーズ氏の3名が搭乗し、シャハフ氏とメイヤーズ氏によって史上初の親子での宇宙飛行が実現しました。
続いて9月8日に3回目の飛行が行われ、宇宙飛行のチケット購入者を対象に今後も約一カ月ごとのペースで宇宙飛行が行われる予定です。
8/25 古川聡宇宙飛行士メンバーのCrew-7打上げ成功(アメリカ)
古川聡宇宙飛行士が参加する有人宇宙飛行ミッション「Crew-7」の打ち上げが行われました。
Crew-7はISSに半年間滞在を行う長期ミッションであり、昨年10月から3月までは同様のミッション「Crew-5」に若田光一宇宙飛行士が参加しました。
メンバーはジャスミン・モグベリ氏(アメリカ)、アンドレアス・モーエンセン氏(デンマーク)、古川聡氏、コンスタンチン・ボリソフ氏(ロシア)の4名で構成されています。
モグベリ氏とボリソフ氏は初、古川氏とモーエンセン氏は2回目の宇宙飛行であり、古川氏が宇宙に行くのは2011年に行われたISSの第28/29次長期滞在ミッション以来、およそ12年ぶりです。
10月 神舟17号 打上げ
中国北部甘粛省の酒泉衛星発射センターより、有人宇宙船「神舟17号」の打ち上げが行われます。
昨年完成した中国の宇宙ステーション「天宮」には3名の宇宙飛行士が滞在しており、半年ごとに人員交代を行っています。神舟17号は天宮に関連する6回目の有人ミッションであり、2023年5月の神舟16号以来、今年2回目の有人宇宙飛行です。
2023年9月現在、クルーの詳細は告知されていませんが、これまでのミッションと同様中国人民解放軍宇宙飛行士隊に所属する3人が宇宙に向かい、天宮に滞在している3人と人員交代を行う予定とされています。
2023年は宇宙開発の歴史に残る年に!
上半期に続き、2023年下半期も多彩で魅力的な宇宙開発のイベントが実施されます。ロケットの世代交代や民間企業・宇宙新興国の躍進、そして新たな日本人宇宙飛行士の誕生など、宇宙開発の歴史においても重要な年となるでしょう。
これらのイベントを通じて、私たちの未来がどのように宇宙と交わるか想像すると、新たな展望が広がるかもしれません。