こんなところに! 宇宙開発研究から実用化された身近にある技術10選

身近にある宇宙開発研究から実用化された技術10選

日々研究・開発が行われている宇宙へ行くため、宇宙を利用するための技術。その成果が今日の私たちの日常生活にも多く生かされている事はご存知でしょうか?

例えば気象予報や衛星通信、地震や災害監視などの衛星サービスを筆頭に、医療技術や環境保護、農業など、様々な分野で宇宙開発から生まれた技術が活用されており、私たちの生活を豊かにしています。

今回はそんな日常に潜む宇宙の研究から実用化された技術を一挙にご紹介! 意外な所にも宇宙の技術が関わっていますよ!

低反発ポリウレタンフォーム

ポリウレタンフォーム(英:Memory foam)は、日本で「低反発素材」と称されており、主に枕やクッションなどに使用される素材です。飛行機の座席などにおける衝撃吸収を目的として、1966年にNorth American Aviation(主に戦闘機などを製造していた航空機メーカー)のエンジニアであるチャールズ・ヨスト氏がNASAから資金提供を受けて開発しました。

ヨスト氏はこの技術を利用した製品を販売するDynamic Systems Inc.を設立、介助が必要な患者さんや車いす利用者のためのクッション、重機操縦席のクッション、バイクのサドル、馬具など宇宙航空開発のカテゴリを超えてさまざまな産業に利用を拡大させました。同社の製品は今もなおNASAのヘリコプターの座席クッションなどに利用されています。

その後、1980年代にポリウレタンフォームの構造がNASAからパブリックドメインとして公開されるとますます広まりを見せ、低反発マットレスや低反発枕といった製品が生まれました。

ミウラ折り(二重波形可展面)

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miura-ori/ミウラ折り miuraoriTV Youtubeチャンネル

ミウラ折りとは、東京大学名誉教授で宇宙構造物設計を専門にする三浦 公亮氏が考案した折り方です。

紙の端の部分を持って一瞬で紙を展開、さらに畳むときも折り目に従って自然に収縮して大きな紙もコンパクトに収まります。この特徴を生かし、主に地図やパンフレット、路線図などにミウラ折りが活用されています。

折り方の特徴は折り目が重ならない所にあります。通常、何度も紙を折りたたむと同じところに折り目が付き分厚くなりますが、ミウラ折りで折りたたむと山折りと谷折りが交互に来ることで紙をコンパクトに畳む事ができます。さらに折り目のパターンが平行四辺形のシンメトリー「二重波形可展構造」となり、破れにくくなるなど強度も増すといったメリットもあります。

ミウラ折りは宇宙空間で太陽電池のパネルを展開するために考案され、1995年には宇宙実験・観測フリーフライヤ(SFU)で実際にパネルの展開実験が行われました。

ダイヤカット缶(PCCPシェル)

缶飲料に用いられる三角形の模様「ダイヤカット」も1969年に三浦氏の「PCCPシェル」の名前で発表した構造から開発されました。

円筒状の物体は、縦に圧縮するとひし形のしわが生まれます。これは東京大学理工学部の吉村慶丸氏が1951年に発表した「吉村パターン」と呼ばれるものです。三浦氏はNASAラングレー研究所在籍中、超音速機がどのように破壊されるのか「吉村パターン」を通して研究を行っていた所、ひし形のしわが入った物体が外部からの圧力に強く、構造的に非常に安定していることに気付いたといいます。これは「ミウラ折り」で平行四辺形の折り目を入れることで紙の強度が増すのと同じ仕組みです。

そこで、薄い表層の円筒状の物体に三角形の折り目のような凹凸パターンを入れることで強化された構造が「PCCPシェル」です。

「PCCPシェル」は円筒状構造に比べて軽いといった特徴もあり、ダイヤカット缶は通常の缶と同じ強度を持ったまま、およそ30%ほど軽量化しています。

フリーズドライ技術

食品など栄養素をほぼ残したまま保存し、かつ軽量化もできることから、近年ますます注目度が高まってきているフリーズドライ技術。

アポロ計画に向けて1960年代から70年代にかけてNASAで行われた宇宙食の研究プログラム以降、フリーズドライ技術は多くの宇宙食に採用されています。宇宙関連施設のお土産として人気の宇宙食アイスクリーム(フリーズドライアイスクリーム)もこの時期に誕生しました。

宇宙ステーションでは、電磁波で周囲の電子機器に影響を及ぼす可能性がある電子レンジは使用できません。そこで、お湯を注ぐだけで調理できるフリーズドライ技術が着目されました。

フリーズドライ技術発明の起源は諸説ありますが、古くはインカ帝国のジャガイモ保存法にさかのぼるといわれます。第二次世界大戦時に血清の保存法として使用されて以降、技術の発展とともに徐々に食品などにも活用されるようになりました。

ただし、フリーズドライのアイスクリームは破片が飛散するリスクがあるなどの事情で、実際の宇宙滞在ではほぼ利用されていなかったそうです。

1970年代には宇宙ステーション(アメリカによって打ち上げられたSkylab)に冷蔵庫が搭載されるようになり、宇宙空間で普通のアイスクリームが食べられるようになりました。

CMOSイメージセンサー

いまやスマートフォンの目玉機能となっているカメラ。手軽に写真が撮れるようになったのはCMOSイメージセンサー(英:CMOS Active-pixel image sensor)のおかげです。

CMOSイメージセンサーはレンズを通して取り込んだ光を電気信号に変換する役割のイメージセンサー(固体撮像素子)に、主にパソコンなどに利用されている半導体CMOSを組み込んだもので、現在流通している多くのデジタルカメラに搭載されています。

CMOSイメージセンサーの実用化が進んだのは1990年以降で、それまでは1969 年に開発されたCCDイメージセンサーが主流でした。CCDイメージセンサーはノイズが少ない撮影が可能ですが、必要電力が多く、作りも複雑なため高価な傾向がありました。

1993年にNASAのジェット推進研究所(JPL)に勤めていたエリック・フォッサム氏が宇宙船に積むカメラの小型化に向けてCCDイメージセンサーの改良を行い、安価で消費電力が低く、小型化も容易なCMOSイメージセンサーの開発に成功しました。

フォッサム氏はその後1996年にNASAを退職、自ら会社を設立してCMOSイメージセンサーの技術を広める事に力を注ぎ、その結果、デジタルカメラ、ビデオカメラ、スマートフォン、ウェブカメラなど、さまざまなデバイスでCMOSイメージセンサーが広く利用されています。

エマージェンシーブランケット(ホイルブランケット)

金色あるいは銀色のシートに覆われた、打ち上げ前の衛星や宇宙船の写真を見たことがありますか?

この薄いシートが、宇宙の温度変化から精密機器や宇宙船に搭乗する人員を守る役割を果たしています。同様の素材を用いて作られたのが「エマージェンシーブランケット」です。

エマージェンシーブランケットはアルミコーティングが施されたプラスチック製の薄いシートです。軽量でありながら優れた防寒性と防風性・防水性を持っている事から、災害時や救急救命の現場、登山やマラソンなど過酷なスポーツ、軍の活動などにおいて体温低下を防ぐために使用されます。

エマージェンシーブランケットなどに使用される断熱素材は1960年代にNASAのマーシャル宇宙飛行センターと契約を結んだ複数の民間企業で開発されました。

-260度を超える極低温から480度の高温までの温度耐性があり、さらに紫外線も反射できるため、過酷な宇宙環境で活動するには欠かせない素材となっています。

歯磨き粉の成分(ハイドロキシアパタイト)

ハイドロキシアパタイトはリン酸カルシウムの一種で、骨の60%、歯のエナメル質の97%近くを占める成分です。歯磨き粉にも配合されており、また骨の修復や人工骨にもハイドロキシアパタイトが使用されています。

ハイドロキシアパタイトの結晶を育てる技術は、1960年代にNASA のエレクトロニクス研究センターでバーナード・ルービン氏によって発見され、歯に吸着させることで歯の再石灰化(修復)を行う特許が取得されました。

ルービン氏は半導体研究を行っており、電子機器用の結晶実験を行っていた所、ハイドロキシアパタイトの結晶の成長の仕方が歯や骨の中で結晶が形成される過程とよく似ている事に気付いたといいます。

ハイドロキシアパタイトを歯磨き粉に初めて採用したのは日本の会社(株式会社サンギ)であり、以降他の企業でもハイドロキシアパタイト入りの歯磨き粉の販売が始まりました。

UVカットレンズ

©NASA

夏の強い日差しを防ぐのに欠かせないサングラス。有害な紫外線をカットするフィルターの開発にも、NASAのジェット推進研究所における鳥類の研究が貢献しています。

タカやワシなどの猛禽類の目には放射光線から身を守る独特の油滴が含まれており、まぶしさを軽減し、視界の色のコントラストと鮮明さを高めることで標的となる獲物を区別する能力があります。

太陽光から宇宙飛行士の視力を守るための研究をしていたジェームス B. スティーブンス氏とチャールズ G. ミラー氏らはそこに着目し、光をフィルタリングするための色素と紫外線をカットする酸化亜鉛を使用してレンズをフィルタリングする研究を行い、暗い視界でも見やすく、紫外線の他、溶接光など有害な光を吸収、遮断できるレンズを開発しました。

UVカットレンズのフィルターはサングラスの他、溶接カバー、スキーゴーグルなどに利用されています。

 

ハンディクリーナー

机の上、テレビの裏、外の車など、どこでも手軽に掃除ができるハンディクリーナーの形状は、アポロ計画で月の石を採取するために使われたドリル式採集機が元になっています。

アポロ15号の月面着陸計画には、月の表面下にある岩石や土壌のサンプルを採集するミッションが含まれていました。しかし、当時はコードレスで動くドリルや採集機がなかったため、1963年から1972年にかけてNASAとアメリカの工具メーカーBlack & Deckerが共同で電池式のドリルの開発が行われました。

電池式の採集機はアポロ15号~17号のミッションで活躍。採取されたサンプルはテキサス州ヒューストンの月サンプル研究所施設に保管されています。

さらにBlack & Decker社はその後開発したドリルの内部構造を利用し、1979年にハンディクリーナーを発売すると、当時としては画期的な「コードレス掃除機」として人気を集めヒット商品となりました。

スピーカーに内蔵される磁性流体(MR流体)

スピーカーのコンポネートを冷却する際には、「磁性流体」と称される物質が使われています。

磁性流体とは油や水の中に鉄の粒子などを均一に含んでおり、液状でありながら磁石に近づけると引き寄せられて固まる特性を持ちます。

このような液体状の磁石は1930年には初期の形が存在していましたが、1963年にNASAグレン研究センターに勤務していた科学者スティーブ・パペル氏によってはじめて製造法が確立しました。

パペル氏は当時まだ固体のロケット燃料が主流だった中、液体燃料の開発を行っており、磁石で制御しながら液体燃料をロケットに効率的に送り込むアイディアを提案。その中で灯油を使った最初の磁性流体が開発されました。

磁性流体を利用したロケット燃料は不採用になったものの、1965年には磁性流体の製造法の特許が取得されています。

以降、磁性流体はスピーカーのコンポネート冷却剤として広く使用されている他、電子機器に利用される磁性流体のシールなど様々な場面で活用されています。また、磁石を近づけるとウニやハリネズミのような刺々しい風貌になる特徴などを利用し、近年はアートなどに使用される機会も増えてきています。

宇宙のための技術は、私たちの未来にも繋がる

今私たちが当たり前のように利用している技術が、かつてはロケットを飛ばすために開発されたものや、月の石を採取するために考えられた仕組みであったり、宇宙飛行士の命を守るために利用されていた事は驚きです。

宇宙に行くための実験や技術開発は今もなお続けられており、新しい技術は次々と誕生しています。

今後もし画期的な商品が出てきたら、それは宇宙開発が元になっている……かもしれません。

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