宇宙食最前線! 宇宙ではどんなものが食べられる?【後編】

有人宇宙飛行に欠かせない宇宙食。『前編』では宇宙食の概要と歴史を見ていきました。
後編では宇宙食の種類や最新の宇宙食のトピックをご紹介します。

宇宙食の種類

宇宙飛行士たちが口にする宇宙食は、無重力環境や限られた設備の中で、栄養バランスを保ちつつ美味しく食べるために、様々な種類が用意されています。
現在採用されている代表的な宇宙食の種類を見ていきましょう。

缶詰、レトルト食品

ISSで開封された缶詰©NASA

缶詰やレトルト食品は常温で長期間保存でき、開封してそのまま、もしくは温めるだけで食べられるのが特徴です。
食品の中でも特に宇宙食に向いており、中身が飛び散らないような工夫が施されたうえで宇宙に持ち込まれます。水が貴重なISSで、水を使わず食べる事ができるのも大きなメリットです。
缶詰やレトルトのパッケージには無重力空間で固定するための面ファスナーなどが追加されますが、パッケージの素材や方法は地上のものと変わりません。
日本で開発された缶詰・レトルトの宇宙食はやきとり、うなぎ、カレーなどがあります。

フリーズドライ食品

ISSにてフリーズドライ食品に加水調理をする様子©NASA

食品を凍結させた後、真空状態で水分を昇華させることで乾燥させるフリーズドライ食品は、水を加えれば食べられる手軽さと軽量性がメリットです。
宇宙へ物を運ぶコストは1kg増えると約100万円増加するとされ、食品においても軽量性は非常に重要です。
フリーズドライ食品の多くは注水口のついたポリエステル製のパウチに保存され、さらにアルミ製の外装でパッケージングされます。食べるときには注水口から水やお湯を注ぎ、食品を戻してからパッケージを開封します。
宇宙日本食では鮭ご飯やラーメン、粉末緑茶が提供されています。

自然形態食品

自然携帯食品とは水を加えたり温めたりすることなくそのまま食べられる食品です。ビスケットやドライフルーツ、キャンディなどのお菓子が中心です。パッケージは食品によって異なりますが、アルミホイル、またはポリエステルの外装でパッケージングされます。
日本から提供されているものではゼリー、羊羹、キシリトールガムなどがあります。

生鮮食品

ISSに届けられた新鮮な果物と宇宙飛行士©NASA

現在のISSには冷凍庫および冷蔵庫は搭載されていないため、生鮮食品の保存はできません。
しかし、補給機にある冷蔵庫や冷凍庫などを利用して、ISSに新鮮な果物や野菜が運ばれることがあります。補給機やロケットの打ち上げ直前に保存袋に入れて積み込み、到着後すぐに食べることで、ISSでも新鮮な食品を楽しめるようになりました。
そのまま食べる果物が多く、これまで日本で生産されたものではリンゴやレモン、シャインマスカットが選ばれました。
また、補給機で運ばれる生鮮食品とは別に、ISS内で栽培された野菜などが収穫され、食されることもあります。
(2024年現在は宇宙ステーション補給機「こうのとり」の運用終了と新型補給機開発中のため、日本からは提供されていません)

調味料

味覚や嗅覚が鈍くなる無重力(微小重力)空間では、味を加える調味料も食事を楽しむための重要な要素です。
粉状の調味料は使用できないため、塩や胡椒なども液体状に加工されてISSへ持ち込まれます。
調味料の中では宇宙食用に加工されたしょうゆとマヨネーズが宇宙日本食に認定されています。

宇宙食最新事情

食べ方や製造・保管に工夫がいるものの、意外にも地上の食品と似通うところがある宇宙食。
近年話題になった宇宙食についてのトピックをご紹介します。

宇宙食の開発

宇宙食へ水を注入する最新型のウォーターガン©NASA

NASAが提供する宇宙食はジョンソン宇宙センター (テキサス州ヒューストン) と宇宙食研究施設 (テキサス州カレッジステーション) の宇宙食システム研究所(The Space Food Systems Laboratory )で開発されています。
宇宙食システム研究所はNASAで実施されるプロジェクト全てに宇宙食を提供しており、宇宙食の製造、パッケージング、安全性と保存期間の評価まで行っています。有人月面探査など、将来的なミッションに備えた食品開発を行う先進食品技術研究チームも存在します。
宇宙食は宇宙飛行士を派遣している国で積極的に開発されています。
日本は「宇宙日本食」制度という一定の基準を満たした食品を宇宙食として認定する制度があり、食品企業などをはじめ、学生でも宇宙食の開発に参加する事が可能です。
2019年には高校生が作ったサバ缶が宇宙日本食に認定されました。

宇宙での食品栽培実験

ISS内のVeggieで生産されるレタス、水菜©NASA

宇宙食が時代を経るとともにおいしく、栄養価が高い食品になってきてはいますが、それでもレトルト食品やフリーズドライ食品が中心の宇宙食のみでは十分な栄養素を摂取する事はできません。
宇宙食では新鮮な野菜や果物に多いビタミンCが特に不足しがちになりますが、補給機で野菜や果物の運搬が頻繁にできるわけではありません。これを補うためにISSには植物を育てる宇宙菜園があります。
ISSでは植物を育てるための設備が2つあり、1つが高度植物栽培装置(Advanced Plant Habitat APH)、もう一つが野菜生産システム・ベジー(Veggie)です。
APHは密閉されたうえで水や温度が管理された環境でのサンプル採集を行う目的のもので、ベジーは宇宙飛行士の栄養補給の他、植物の成長、宇宙の生活においてのストレス低減を目的に設置されました。
ベジーではこれまでレタス、白菜、水菜などの植物や花が育てられており、日本人宇宙飛行士も栽培や試食を行うなど実験に携わりました。2023年にはVeggieで栽培していたトマトが行方不明に、といった小さな事件も話題になっています。

地上でも防災食品として活躍

宇宙食を食べることができるのは宇宙飛行士だけではありません。近年は宇宙関連のイベントで宇宙食が販売される等で、地上でも宇宙食を手に入れる事ができる機会が増加しています。
また、長期間保存できることが条件となる宇宙食は防災食品にも向いているとして、2022年からは「宇宙日本食」に認証された食品は、「日本災害食」の審査のプロセスが一部省略され、比較的容易に認証が下りるようになるといった取り組みも始まりました。
災害が起きた際、避難先で宇宙食が配られる、といった状況が今後見られるかもしれません。

宇宙食から食と私たちの密接な関係が見えてくる

様々な制約がありながら、宇宙環境の食事は地上のものと徐々に近づきつつあります。
2023年には、ISSを再現した環境内で宇宙飛行士に野菜や肉、魚貝類の割合を増やした最新の宇宙食を提供する実験が行われました。最新の宇宙食を食べた宇宙飛行士のパフォーマンスは従来の宇宙食を食べた時と比べて劇的に改善したと報告されており、宇宙食の進化と同時に、私たちの生活においていかに食事が大きく関わっているかを実感させます。
地上と宇宙で全く同じ食事を楽しめる日も、遠くはないのかもしれません。

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