いまさら聞けない!?アルテミス計画のあれこれ

2022年5月、バイデン米大統領が就任後初めて来日したのは記憶に新しいでしょう。岸田文雄首相との会談では、日米両国が月探査に向けて協力体制をあらためて確認したことはご存知でしょうか。米国のアポロ計画以降、半世紀にわたり途絶えていた月の有人探査を再開し、最終的には人類を火星に送り込むという米主導の「アルテミス計画」。 その言葉を聞いたことはあっても、詳しい情報まで知っている方は少ないでしょう。この記事では、アルテミス計画の実施内容や参加国、具体的なプロセス、また、アルテミス計画を理解する上で押さえておきたい重要なトピックをご紹介します。

アルテミス計画とは?

NASAが提案している月面探査プログラム全体をまとめて「アルテミス計画」と呼んでいます。月面着陸や有人探査、将来の火星有人探査にもつながる非常に重要な一歩という位置づけです。日本人初の月面着陸が実現されるのではないかと注目を集めています。

アルテミス計画の由来

「アルテミス」という名前はギリシャ神話における月の女神に由来します。半世紀前に人類初の有人月面探査を実現させたアポロ計画は同神話の「アポロ」に由来しており、アポロとアルテミスは双子の関係にあります。再び有人着陸を目指すアルテミス計画の名称には女性初の月着陸を意識して名付けられました。

©NASA

アルテミス計画の参加国

2020年10月、アルテミス計画を推進するため、アメリカ・日本・カナダ・イタリア・ルクセンブルク・UAE・イギリス・オーストラリアの8か国が「全ての活動は平和目的のために行う」ことなどをはじめとした、アルテミス合意にサインしました。その後も合意国の数は増え、2022年6月にはフランスが20番目の合意サインを行っています。

アルテミス合意とは、宇宙探査・利用に関する国際ルールで、アルテミス計画を念頭に各国の共通認識を示す宣言のことを指します。ルールに基づく透明性のある宇宙探査・利用が広がっていくよう、国際社会において日本は主導的な役割を果たしていきます。アルテミス合意の内容をまとめると以下のようになります。

  1. アルテミス計画の元で行われる全ての活動は平和的な目的で行う。
  2. 合意国は透明性を持ち活動する。
  3. 緊急時の支援
  4. 宇宙資源の採取や利用
  5. 「アポロ計画」の遺産を遺すこと
  6. 科学データの公開や共有を行う
  7. 探査活動における宇宙ゴミ(スペースデブリ)の対処

アルテミス計画の3つのプロセス

アルテミス計画は、大きく3つのミッションに分類されます。

まず、「アルテミスⅠ」では大型ロケット「Space Launch System(SLSロケット)」と「オライオン宇宙船」を地球から月まで往来させる無人飛行試験を実施します。ここでは、まだ月面着陸は想定していません。

©NASA

続く「アルテミスⅡ」では、SLSロケットとオライオン宇宙船の有人飛行試験を実施します。ミッションは10日の想定です。当初打上は2022年予定でしたが、SLSロケットとオライオンの技術的な問題に加えて、新型コロナウィルス感染症によるスケジュール遅延があったため、2024年半ば頃までの延期が予測されています。また、「アルテミスⅡ」完了後には、ゲートウェイと呼ばれる月を回る有人宇宙ステーションを建設する構想が建てられています。ゲートウェイについては、後述の「月を回る有人宇宙ステーションが作られる」で詳しくご紹介します。

©NASA

そして「アルテミスⅢ」では、ゲートウェイを経由して、宇宙飛行士による月面着陸が計画されています。オライオン宇宙船で月を周回するゲートウェイまで行き、そこから着陸船を使って月面まで移動します。こちらも当初は2024年を目標としていましたが、2022年3月には、NASA OIG(Office of Inspector General)担当者が議会で「アルテミスⅢは2026年以降になる。」という見解を示しました。

アルテミス計画の重要トピック3つ

ここまでは、アルテミス計画の基礎知識について解説してきました。ここからは、アルテミス計画を理解する上で重要な3つのトピックについてご紹介します。

女性宇宙飛行士による初の月面着陸が予定されている

アルテミス計画では、女性宇宙飛行士による初の月面着陸が予定されており、歴史的な出来事として注目を集めています。マイク・ペンス元副大統領が、アルテミス計画の参加メンバー発表時に男女一人ずつを月面に着陸させることを示したことで、その予定が明らかになりました。NASAから参加する宇宙飛行士は全18名で、そのうち半数の9名が女性で構成されています。月面に着陸する初の女性宇宙飛行士は、この9名の誰かとなる予定です。

月の国際宇宙ステーションが作られる

月の周回軌道上に構築される宇宙ステーション「ゲートウェイ」は月面および火星に向けた中継基地として、米国の提案のもと、ISSに参加する宇宙機関から構成された作業チームで検討が進められています。「ゲートウェイ」の組み立てフェーズでは、4名の宇宙飛行士により年間30日程度の滞在が想定され、2028年の完成を目指しています。将来的には100日程度の長期滞在も可能になる予定です。

将来的に月面基地の建設や、火星探査を行う場合、地球から遠く離れたところで数年単位での生活技術が必要となります。ゲートウェイは宇宙飛行士が深宇宙で長期滞在するための予行練習の場としても使われるのです。

ちなみに、ゲートウェイは、すでに運用されているISSとは以下のような違いがあります。

 

ゲートウェイ

ISS

質量

約70t

約420t

宇宙飛行士の滞在日数(年間)

10~30日

365日(常時)

滞在宇宙飛行士人数

4人

7人

軌道の特徴

楕円上の軌道を描く

(月面から最も近い距離が4,000km、最も離れた距離が75,000km)

ほぼ真ん丸の軌道を描く

(地上からの距離は約400kmで一定)

*参考:内閣府|宇宙政策委員会 宇宙産業・科学技術基盤部会 宇宙科学・探査小委員会 第32回会合 議事次第|参考資料3|国際協力による月探査計画への参画に向けて参考資料(2/4)

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日本の取り組み内容が具体的になってきている

アルテミス計画における日本の取り組み内容は、徐々に具体的になってきています。JAXAはこれまでのISSや有人宇宙活動、補給機「こうのとり」で培った技術を活用した参画を検討しています。

▼日本が担うゲートウェイ構想への取り組み例

  1. ゲートウェイの居住棟の電源機器、生命維持システムなどの構成要素を提供
  2. ゲートウェイへの物資輸送を想定した技術実証
  3. アルテミス計画に参加する日本人宇宙飛行士の活動内容の協議
  4. 有人の与圧ローバ(探査車)の継続的な技術開発

3と4の取り組みに関連した注目のトピックとして、JAXAによる日本人宇宙飛行士の募集と日本の民間企業(トヨタ)による有人与圧ローバの技術開発協力が挙げられます。  

まず、日本人宇宙飛行士の募集について、JAXAは13年ぶりに宇宙飛行士の募集を開始しました。アルテミス計画に伴う月やさまざまな探査活動を見越して、今後は5年に1度の定期募集が予定されています。ちなみに、従来の宇宙飛行士試験の内容や応募条件については「宇宙飛行士になるには?試験の内容、身長や大学などの応募条件も」で詳しく解説しています。

また、日本の民間企業(トヨタ)による技術開発協力については、有人与圧ローバ(探査車)の試作が「ルナクルーザー」と命名されたことが話題に。ルナクルーザーとは、トヨタとJAXAが協同で開発中の探査車で、アルテミス計画の月面の探査活動で活用することを目指しています。まだ、試作段階であり、2029年の打ち上げを目標として完成が期待されています。

©NASA

まとめ

アルテミス計画とは、アメリカ政府によって2017年に発表された世界的な月探査プロジェクトの総称です。NASAが主導となり、アルテミスⅠからアルテミスⅢまでの3つのプロセスで進めていきます。アルテミスⅢでは有人月面着陸を計画しており、さらに将来的には月面の有人探査や月面基地建設を目指しています。従来の月探査にはなかった、初の女性宇宙飛行士による月面着陸やゲートウェイと呼ばれるプラットフォームの構築などのトピックが注目されています。日本人宇宙飛行士による史上初の月面着陸に向けても大きな期待が集まります。

JAMSSは国際宇宙ステーション「きぼう」を運用する唯一の民間企業です。これまでISS計画における「きぼう」、「こうのとり」の運用、宇宙飛行士や管制員の訓練等に携わってきました。アルテミス計画のように各国が協力し、世界的に宇宙の探査領域を拡大している流れの中で、JAMSSもまた、月や火星の有人探査活動に関わっていく予定です。

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