ナレッジマネジメントとは?期待できる効果や手法、ツールを解説

組織の知識を活用して、生産性や品質を向上させることが期待できるナレッジマネジメント。字面からナレッジをマネジメントする、ということは分かっても、具体的にどういったマネジメントを指すのか知っている方は多くないはず。 この記事では、ナレッジマネジメントの意味や注目される背景などの概要を簡単に解説しています。また、ナレッジマネジメントで用いられる4つの手法を挙げ、それぞれの取り組み方や期待できる効果もご紹介します。

ナレッジマネジメントとは?

ナレッジマネジメントの表記を単語の意味で区切ると、knowledge(知識)+management(経営・管理)と分けられます。まずは、ナレッジマネジメントの意味や注目される背景などを解説します。

組織の知識を体系的に管理する経営手法

ナレッジマネジメントとは、組織における知識を資産として考え、それらを共有・創造・活用するプロセスを体系的に管理する経営手法です。個人の知識を組織全体に共有することで、新たな発見・イノベーションを促し、生産性や競争力を高めることが期待されます。また、もう少し現場側に視点を向けて、日報で個々の知識を発信させる、ヘルプデスクシステムを導入する、といった知識管理という意味でナレッジマネジメントという言葉が使われることもあります。

ナレッジマネジメントが注目される背景

ナレッジマネジメントは、日本企業を取り巻く環境が大きく変化したことにより、その重要性が高まり、一層の注目を集めています。もともと多くの日本企業は、ナレッジが共有されやすい体制でした。終身雇用により社員が長く会社に在席し、また定期的な人事異動を実施することで、自然とナレッジが共有されやすい状況にありました。しかし、徐々に転職率の増加、働き方の多様化が進み、ナレッジが共有されにくい環境となり、積極的に社内のナレッジを共有・活用する取り組みが必要となったのです。

ナレッジマネジメントの基礎となる理論

ナレッジマネジメントの基礎となる理論として、「形式知と暗黙知」「SECIモデル」が代表的なものとして挙げられます。それぞれの概要について見ていきましょう。

形式知と暗黙知

形式知と暗黙知はナレッジマネジメントを理解する上で欠かせない概念の一つです。まず、知識は形式知と暗黙知の2つに分けられます。形式知は、文章や数字、図で説明できる知識を指し、暗黙知は、自分では無意識的にできることがうまく人に説明できない知識を指します。例えば、経験に基づいた勘やコツなどが暗黙知に該当します。ナレッジマネジメントでは、この暗黙知を形式知にすることが重要視されています。

SECIモデル

SECIモデルは、ナレッジマネジメントにおける知識創造のプロセスを体系化した理論の一つです。知識創造のプロセスは、共同化・表出化・連結化・内面化の4つ。このプロセスの中で、暗黙知を形式知に、形式知を暗黙知に変換する作業を繰り返すことで知識が創造されると考えられています。ちなみに、SECIとは4つのプロセスを英語で表記したときの頭文字から取られています。

  1. 共同化(Socialization)
  2. 表出化(Externalization)
  3. 連結化(Combination)
  4. 内面化(Internalization)

SECIモデルの実践について詳しくは、「SECIモデルとは?知識創造の仕組みや実施の具体例を解説」をご覧ください。

手法別|ナレッジマネジメントの活用法

ここまではナレッジマネジメントの概要について見てきました。次に、以下のナレッジマネジメントの4つの手法別にそれぞれの取り組み方や見込める効果を解説します。

  1. ヘルプデスク型
  2. 業務プロセス型
  3. ベストプラクティス型
  4. 分析・戦略型

1.ヘルプデスク型

ナレッジマネジメントの手法の一つに、ヘルプデスク型が挙げられます。ヘルプデスク型とは、自社の社員や顧客から受ける問い合わせの内容とその回答をセットでデータベース化する手法です。特定の社員が持っている専門的な知識を蓄積でき、かつ知りたい情報を簡単に引き出せます。実施方法は、ヘルプデスクサービスの利用や自社でのシステム構築が一般的です。社員から質問を受けやすい総務部や情報システム部などのバックヤード部門でよく取り入れられています。

ヘルプデスク型の手法を導入するメリットは、質問を受ける側の社員の対応コスト・負担を軽減できることです。同時に、知りたい解決策に自分だけで辿り着けるため、質問する側の社員にも発生する心理的な負担も軽減できます。

2.業務プロセス型

業務プロセス型の手法は、顧客から寄せられた意見やクレーム、それらを受けて対応した内容や結果、などの情報をデータベース化し、今後似たような事象が発生した場合のナレッジとして活用するやり方です。ヘルプデスク型のように一問一答形式ではなく、適切に処理するための方向性やプロセスを確認できます。例えば、顧客とのやり取りで対応方法に困った場合、データベースから過去事例を抽出し、円滑に進めるための方向性や適切な回答を確認する、といった使い方です。データベースシステムは、顧客管理システム(CRM)や営業支援ツール(SFA)などがよく使われます。

業務プロセス型の手法を導入するメリットは、まずは顧客からの問い合わせに対して適切に回答できる点です。加えて、問い合わせの難易度に応じて適切な対応者にバトンタッチするタイミングを判斷しやすくなる点も挙げられます。また、データベースに蓄積した情報を自社のマーケティングや製品・サービス開発にも活用できます。

3.ベストプラクティス型

ナレッジマネジメントのベストプラクティス型とは、優秀な社員の思考や行動を分析し、データベース化することで組織全体にナレッジを共有する手法です。優秀な社員が持つ暗黙知を形式知化することで、成果につながる何らかの要素を抽出できます。ナレッジの基になる暗黙知とは、例えば、優秀なエンジニアが業務で問題が発生した場合に、それを対処するときの思考法や姿勢などです。形式知から選定したナレッジは、マニュアルやFAQなどに落とし込むことができます。

ベストプラクティス型の手法を導入するメリットは、組織全体のスキルの底上げが期待できる点です。形式知化したナレッジは、成果をあげる上で効果的な思考やマインドが詰まった社員教育用の教材と言えます。ただし、この手法は、暗黙知の形式知化、形式知からのナレッジ抽出、といった工程が不可欠で、実施の難易度が高めです。

4.分析・戦略型

ナレッジマネジメントの分析・戦略型とは、社内外の情報を集約し、主にITツールを使って分析する手法です。分析から成功事例に共通する条件などが見えるようになり、その結果を経営戦略や経営判断に活用します。情報量が膨大になるため、集約・分析にはデータウェアハウス*1やデータマイニングツール*2などのITツール導入の検討が必要です。

分析・戦略型の手法を導入するメリットは、この手法をさまざまな業務プロセスの改善にも生かせる点です。非効率となっているボトルネックを検出でき、それを解消することで効率的なプロセスに改善することができます。

*1.データウェアハウス:種類が異なる複数のシステムの情報を一元的に保存・整理できるツール
*2.データマイニングツール:膨大なデータからさまざまな分析手法を用いて新たな知識を導き出せるツール

ナレッジマネジメントのよくある失敗事例

ナレッジマネジメントが失敗する主な要因は、「明確な目的がないままツールを導入する」「ツールを導入して満足してしまっている」の大きく2つです。

「明確な目的がないままツールを導入するケース」とは、ナレッジマネジメントによって実現したい目標や解決したい課題が明確に定まっていない状態です。ゴールが曖昧だと、ツールの活用も最適な方法を取れず、ナレッジが蓄積されない、蓄積されたナレッジを効果的に利用できない、といった結果につながります。こういった失敗を避けるためには、導入前にプロジェクトチーム内で自社が抱える課題を明らかにし、そもそもナレッジマネジメントが課題解決の手段として適切であるのかを検討しましょう。

「ツールを導入して満足してしまっているケース」とは、導入後の変化を検証せず、ツールだけ入れて放置してしまっている状態です。ナレッジの蓄積にかかる負担やナレッジの見つけやすさなどは、ツールを実際に導入して使ってみないと分かりづらいもの。この問題を回避するためには、ツール導入後に非効率な点やストレスが出やすい部分を従業員から吸い上げる仕組みを設け、かつプロジェクトチーム内で改善策を検討・実施することが重要です。また、中にはツール活用に消極的な従業員もいるので、ほかの従業員も巻き込んでツールを活用する役割を設ける、といった体制整備の工夫も不可欠です

まとめ

ナレッジマネジメントとは、組織において知識を共有・活用するプロセスを体系的に管理する経営手法です。また、業務上の知識をメンバーで共有・活用する方法、といった意味合いもあります。ナレッジマネジメントの手法は大きく4つのタイプがあり、目的に応じて使い分ることで効果を享受しやすくなります。

なお、JAMSSでは、複雑かつ安全性に直結する技術や知識の共有・活用が求められる宇宙関連事業を担ってきました。そこで培ったナレッジマネジメントのノウハウを活用できる「技術伝承」サービスを提供しています。

ナレッジマネジメントを実施する上で、暗黙知の形式知化が成功のポイントの一つです。暗黙知の技術伝承について詳しくは「技術・技能伝承にAIやIoTを導入したとしても、やらなければならない事 ~効果的な暗黙知伝承のために何が必要か~」をご覧ください。

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