宇宙飛行士じゃなくても宇宙に行ける? 私が宇宙へ行く方法。

どうしたら私は宇宙に行ける?

あなたが見上げたその空のわずか80キロメートルから100キロメートルほど先に広がる「宇宙」は、太古の時代から私たちの身近にありながら遠い場所でした。その「宇宙」まで行ったことがあるのは、未だに地球に暮らしている私たちの一握りの人たちです。

ほんの数十年前まで、「宇宙」に行くには宇宙飛行士をめざすというのが一般的でした。しかし近年、宇宙技術の進歩や宇宙事業にチャレンジする民間企業の躍進により、「宇宙」へ行くこと自体のハードルは低くなりつつあります。2021年12月、前澤友作氏が日本の民間人として初めてISSに滞在を行ったニュースは記憶に新しいのではないでしょうか。

このように身近になってきた宇宙旅行ですが、私たちが宇宙へ行くには実際にどんな方法があるか一緒に見ていきましょう。

宇宙旅行ってなに?

無重力体験ツアー

地上と宇宙との違いと聞かれてすぐに思いつくのは、「無重力」ではないでしょうか。宇宙ステーションや宇宙空間にいる宇宙飛行士が宙を泳いでいたり、飛び跳ねたりしている映像や写真はとても印象的ですね。

しかし「無重力状態」を経験できるのは、宇宙空間だけではありません。*
重力が少なくなる「微小重力」「無重力状態」は物が落下(自由落下)している時に発生します。地球の中心に向かって落ち続けている間であれば、通常の重力を感じることはありません。

まさにこれを利用したのが飛行機による「パラボリックフライト」です。

無重力状態が発生

飛行機で放物線を描くように飛ぶと、降下している数秒間は飛行機の中で無重力状態が発生することから、実際に宇宙飛行士が宇宙に行く前の訓練にも使用されています。このパラボリックフライトによる無重力体験をアクティビティとして提供する企業は世界中に存在し、日本でも体験することが可能です。

費用は企業によっても異なりますが、1回あたりおよそ100万円~150万円が相場です。宇宙体験という範囲で見れば、手が届きやすい費用も魅力です。

*厳密には宇宙空間=無重力ではありません。

成層圏ツアー

成層圏は上空10~50kmほどの空気の層です。雲が発生しないため常に晴れています。飛行機に乗った際、離陸後に雲を抜けると晴れ渡っているのを見たことがあると思います。飛行機は地表の対流圏と成層圏との間、上空10km前後を実は飛行しています。

近年、この成層圏へのツアーを企画している企業が増加傾向にあります。細かい内容は企業やツアーによって異なりますが、多くは乗員が乗る外気の入らないカプセルを取り付けた気球を使用します。
気球は数時間かけて上空30kmまでゆっくり上昇、しばらく高度を保ったまま飛行したのち、また数時間かけて地上へ戻っていく、というのが大まかな流れです。

高度30kmの眺めは宇宙から地球を見た光景に比較的近く、ロケット打ち上げ時にかかる重力負荷や無重力状態なども発生しないため、特殊な訓練なしで宇宙旅行の気分を楽しめるというのが大きな特徴になります。

2022年11月現在、実際の有人飛行は行われていませんが、1,2年以内には実現すると考えられており、チケットをすでに発売している会社もあります。

宇宙滞在ツアー

しかし、「宇宙旅行」といえば、ISS、あるいは月や火星に滞在を行う、といったイメージが強いかもしれません。

殆どの場合、高度100kmから先の宇宙に行けるのは特殊な訓練を受けた宇宙飛行士のみでしたが、近年は冒頭の前澤友作氏をはじめとした民間人の宇宙旅行が数多く実現し、2021年は「宇宙旅行元年」とも言われました。

現在、地球周回やISS滞在、そして月旅行などのプロジェクトは民間企業で多数計画されており、民間人の宇宙旅行者は年々増加していくと言われています。

民間人による宇宙旅行は、航空宇宙関連の民間企業の躍進、打ち上げコストの低下に伴って実現しつつあるといえます。その一方で、少なくとも億単位の莫大な費用がかかる事には変わりありません。2022年現在、まだ宇宙旅行は「高嶺の花」と言えそうです。

実際の宇宙旅行事業

海外

SpaceX

ⒸNASA

SpaceX はアメリカ・カリフォルニア州の航空宇宙企業です。宇宙打ち上げのための支援の他、衛星インターネットサービス「スターリンク」を展開しており、近年日本でも名前を聞く機会が増えた民間企業です。

主な宇宙旅行向けの事業はロケットや宇宙船の開発です。大型宇宙船「スターシップ」や、ロケットの再使用を可能にした「ファルコン9」、補給船を改良し有人宇宙飛行も可能にした「ドラゴン」といったロケットの製造・打ち上げを行っています。

SpaceXが企画する宇宙旅行プロジェクトもあり、2021年に民間人のみで3日間地球の周りを周遊する商業宇宙旅行、2022年には民間人が国際宇宙ステーションに滞在するミッション「Ax-1」(アクシオムスペースとの共同企画)を行っています。

また、2023年には世界初の民間宇宙旅行を行った事でも知られるデニス・チトー氏が夫婦で参加する月周回飛行が予定されています。

商業宇宙旅行・月周回飛行に関する詳細な価格は明かされていませんが、「Ax-1」では一人あたりおよそ5,500万ドル(およそ80億円)の費用が支払われたとされます。

 

公式サイト:https://www.spacex.com/

BLUE ORIGIN

BLUE ORIGINはアメリカ・ワシントン州の航空宇宙企業です。ロケットの製造を主に行い、2022年までに6回の有人飛行を成功させています。

BLUE ORIGINの有人飛行は高度100kmを飛行して地上に戻るサブオービタル飛行と呼ばれるものです。

乗客はロケット上部に取り付けたカプセルに搭乗し、発射後高度約100km付近でロケットからカプセルが切り離されます。上空にいる数分間、カプセル内の乗客は無重力状態と宇宙の眺めを楽しめます。その後、カプセルは地球に落下し帰還となります。

打ち上げから帰還までの飛行時間はおよそ10分~15分前後。短い時間ですが、地球周回や国際宇宙ステーション旅行などと比べて費用を抑えつつ、宇宙の景色や無重力・ロケットの打ち上げを体験できることが特徴です。

BLUE ORIGINによる有人飛行の費用は公表されていません。初回の飛行時、座席がオークションにかけられた際には、およそ2800万ドル(およそ40億円)の値が付きました。

 

公式サイト:https://www.blueorigin.com/

Space Perspective

©Space Perspective

Space Perspectiveはアメリカ・フロリダ州の企業です。同じくフロリダ州にあるケネディ宇宙センターから打ち上げる気球による成層圏ツアーを企画しています。

気球を使用した成層圏ツアーを行っている企業は他にもありますが、Space Perspectiveの気球は、打ち上げに使う燃料に環境にも配慮した再生可能な水素を利用している事が特徴です。

乗客が過ごすカプセルの中は、近未来的ながらラグジュアリーな空間になっており、最大で8人が入れるカプセルには360度のパノラマウィンドウをはじめ、リクライニングシート、wi-fi、望遠鏡があり、お手洗いも完備されています。カプセルにはバーも併設されており、軽食のサービスも行われます。乗客は窓の外の満天の星空や成層圏からの地球の眺めを、ゆったりとした空間で堪能できます。

チケットがすでに販売されており、現在2025年に出発するツアーが公式サイトから申し込み可能です。料金は1 人あたり 125,000 ドル+1 席 1,000ドルのデポジットがかかります(合計およそ1800万円ほど)。また、HISからも日本国内にむけて2022年内にチケットの販売が開始される予定です。

 

公式サイト:https://spaceperspective.com/

日本

ASTRAX ZERO GRAVITY

ASTRAX ZERO GRAVITYは愛知県の企業で、2012年から無重力体験ツアーを提供しています。

このツアーでは小型ジェット機で放物線を描いて飛行するパラボリックフライトが行われます。名古屋空港(小牧空港)より離陸し、約1時間半の飛行時間で7~8回ほどの無重力状態を体験できます。

事前に相談を行えばコスプレなどを行う事も可能で、お気に入りの衣装を着て無重力で記念撮影ができます。持ち込めるものについては規定があるため、事前に相談が必要です。

料金は一人140万円からで、10 歳 ~ 70 歳であればツアーに参加できます。ツアー中は安全講習が実施されるほか、酔い止め薬の支給も行われ、知識や準備などが特にない状態でも楽しく安全に無重力を体験することができますが、参加前に健康診断の診断書の提出が必須となっています。

 

公式サイト:https://www.astrax-zerog.space/

PDエアロスペース

PDエアロスペースも愛知県の企業で、宇宙機の開発事業を行っており、日本からの宇宙旅行の実現を目指しています。

PDエアロスペースが企画している宇宙旅行は、ジェット機型の機体で高度80km近くまで上昇し、数分間の無重力状態を体験するサブオービタル飛行になります。特筆すべきは宇宙機に搭載される独自のエンジンシステムです。

PDエアロスペースが掲げる「誰もが手軽に行ける宇宙旅行」のキーポイントとなるのが、PDエアロスペースの強みである、特許を取得した「燃焼モード切替エンジン」です。

このエンジンは、1つのエンジンでジェットエンジンの燃焼とロケットエンジンの燃焼を切替えて、推力を発生させることが出来ます。

他の宇宙機やスペースシャトルなどもそうですが、着陸する際はグライダーのように滑空する場合が多く、『着陸のやり直しや中断』が出来ないものが多いです。

しかしながら、このエンジンを搭載した機体あれば、帰還時に再度ジェットエンジンを燃焼させられるため、より安全な着陸が可能となります。その上、複数のエンジンではなくなるため、整備などあらゆるコストの軽減が出来、その結果『安全で安価な宇宙旅行=誰もが手軽に行ける宇宙旅行』が実現できるようになります。

「誰もが手軽に宇宙に行ける宇宙旅行」- https://note.com/pdas_uh/n/n7581a28bd312

また、ジェット機の発着に利用する宇宙港の事業も進めており、沖縄県の下地島に滑走路などの整備が進められています。商用化の予定は2029年、料金は一人3000万円ほどになると予定されています。

公式サイト:https://pdas.co.jp/

宇宙旅行はもっと身近に、手軽になる?

宇宙旅行は高嶺の花?

様々な宇宙旅行サービスが出てくるようになりましたが、少なくとも飛行機の飛ぶ高度より上に行くには1000万円は下らず、まだまだ一般的とは言えないというのが2022年の現状です。

しかし、宇宙に行くためのコストは徐々に下がってきてもいます。

一般的に1度のロケット打ち上げにかかる費用は数十億から100億円かかるとされます。ロケット自体の開発費まで含めれば、文字通り天文学的な数値ですが、例えばSpaceXでは、ロケットの再利用により打ち上げコストの引き下げを実現しています。2022年にイーロン・マスク氏は将来的に1000万ドル(およそ40億円)以下の打ち上げも可能になると発言し、話題となりました。

また、ご紹介した成層圏ツアーは、ISSや月への旅行と比べてかかる費用を抑えつつ、気軽に宇宙旅行を味わえる画期的な企画です。

その昔、日本で海外旅行が自由化された60年ほど前の旅行代金は、平均月収の数倍から10倍以上に相当したそうです。しかし、現在の価格は当時と比べて圧倒的に安く海外旅行が実現可能になりました。

宇宙旅行も海外旅行と同様に、技術の進歩や利用者の増加によってコストの低下が進むことは想像に難くありません。

まとめ

宇宙に行くための手段は増えてきており、価格も下がってきたものの、SFのような宇宙旅行を私たちが楽しむのはまだ先の事になりそうです。

しかし、宇宙航空技術は新技術が次々と登場する。進歩の著しい業界です。今後画期的な手段によって宇宙が一気に近くなる、ということもあり得るかもしれません。

 

※米ドル-円は1ドル=140円を目安に計算

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